第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
苦虫を噛み潰したような顔をした後、彼女は重々しく口を開いた。
「いくら髪は女の命と言えども、術者にとって意味がなければ意味がなった。偶々私は翡翠色の髪で生まれた者ですから、夫は私と同じ色の髪を求めた。しかし夫にとって縁が薄ければどんどん力は無くなって行く。だから私の最後の髪一房を用いて願った。翡翠の髪を願いを叶える髪にしてくれと」
『どうして、翡翠の髪だけ…?』
「残った私の髪はもう短かったので、翡翠の髪と特定しなければ叶えられなかったのです。そして翡翠の髪でもっともっとたくさんの願い事をしたかった。願い事をして、もう一度私が生身の姿で夫の前に現れるようにと、沢山の髪で。しかしそれは叶う事はなく夫はいなくなった。どこで亡くなったのかも分かっていません」
不自然すぎる点が多いが、取り敢えず雛菊さんの旦那さんの遺骨を見つけないことには何も始まらない。色々分かったが、何とも傍迷惑な話である。
『ねえ、思ったんだけど、私の髪で翡翠の髪を終わらせる事はできないの?まだ短いけど…それじゃダメなのかな』
「貴方の髪、恐らく切られてからあまり時間が経っていませんね。半年以内ではないですか?」
『うん、そうだけど…』
「貴方のその髪、まだ通常通りの動きになっていません。切る前は相当長かったとお見受け致します」
『そうだね、少なくとも周りの人よりは長かった自信はあるよ』
「不幸を取り入れているのですが、それを願いを叶える力にまだ変換できていませんね。貴方の髪はまだ不幸が溜まった髪です」
『なんか嫌だなそれ…』
つまり今まで不幸が溜まった髪で雪音や太陽達と一緒にいたことになる。何という歩く災害。
「一緒に探していただけますか?夫を」
『分かった。探すよ、貴方の旦那さん』
「ありがとうございます」
嬉しそうな顔をして良かったと安堵する顔が、花開くようで可愛らしい。私とは、違う気がした。
「台所についてはまだ使える筈です。火は自分で起こしていただく事になりますが…」
『そうだね。でもお父さんがレトルト食品毎週届けてくれるって。私が出歩けないのを知って、宅配で届けてもらうように手配したみたい』
「今の世の中は便利ですね」
『そうだね。私も料理できるけど、買い物に行った時に迷惑かけるわけにはいかないし。これで良いんだよ』
しばらくは雛菊さんとの共同生活になりそうだ。