第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
至る所ボロボロで端が崩れているところもあるが、かろうじて読める。言い回しも古くて読むのに苦労しそうだ。
『う、うーん…』
「失念しておりました、現代ではあまりこう言った言い回しはしないのでしたね。言い換えます」
横髪を耳にかける仕草がとても綺麗だった。横顔も整っていて、古書を真剣に見つめる姿に恋をする旦那さんの気持ちも分かる気がする。
「簡単にここに書いてあることを伝えましょう。術を使う者の命を引き換えに万能の力を手にするという事です」
『これを、貴方の旦那さんが使ったの?』
「そうです」
『一体何をする為に…?病気を治すとか…?』
「いえ、夫がこの術に気が付いたのは、私が死んだ後でした。だから、望んだのです。夫は、髪と命を引き換えてくれと」
『でも、貴方は生き返っていない…』
「いえ、ある意味では成功していました。それが私がいる事の証明になる筈です」
雛菊さんの今の存在が魂であるというのなら、一応は引き換えに成功しているという事か。
「髪は女の命と言うでしょう?それを命に見立てて夫は願った。私をこの世に呼び戻すようにと」
『結果、あなたはここに留まってしまった。だからいけない理由があるって、そう言ったんだね』
「その通りです。その術は私を見れば分かると思いますが、継続中なのです。それを止める為には、夫を消すしかない」
またしてもこの人の口から物騒な言葉が飛び出てきた。もう物理的に消えているのをどうやってまた消せと言うのか。
『具体的には?』
「夫の遺骨を見つけて下さい。その後は私が引き受けますから」
『分かった。でも、雛菊さんって壁すり抜けられるよね。それでも見つからないって…』
「はい、だから貴方を呼びました」
『私…?私と何か関係があるの?』
雛菊さんの旦那さんの名前も顔も知らないし、今の所ある情報が雛菊さんの髪を使って…。いや、それだと翡翠の髪が力を持つ子になった理由に説明がつかない。
「貴方も、翡翠の髪だから」
『翡翠の髪…どうして翡翠の髪は力を持ったの?』
「髪を使って、何度も願いを叶える為です」
『言ってたね。旦那さん、貴方の髪を使って貴方の御霊を現世に呼び戻したって』
「気付いたのです。夫は、女の髪さえあれば、願いを何度も叶えられると。私は、見ていたから、知っていたのです…」
『ごめん、辛い事、思い出させて…』
「いえ…」