第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
「夫は、私を長生きさせようとした。自然の摂理に逆らって。しかしそれは最早生命への冒涜。何度もやめてくれと願いました。けれど、夫も止まれなかった」
何とかしてでも奥さんを生きさせたかった旦那さん、といったところか。それ程までに雛菊さんを愛していたらしい。
「私は先程、翡翠の髪を持ってしまった、と言いましたね」
『確かに、そう言ってたかも…』
「そう言ったのには訳があります。この髪、実は後天的な物なのです」
『何故、こうなってしまったの?』
「私の命ももう間も無く尽きるという頃、夫は怪しい呪術に手を出し始めました。それが栗花落家が呪術を主に扱うようになった原因です。元はこんな邪悪な家系ではなかったのです。全ては夫の責任です」
暴走したが止まれなかったとは何ともありがちな話だが、今回に至ってはあるあると終わらせられることではない。自分の周りの人の人生に関わってくる。
「翡翠色の髪を持って生まれた事は事実ですが、栗花落家の人間の翡翠の髪が力を持つようになってしまったのは夫の呪術が原因です。此処までは良いですか?」
『うん。分かった。それで、私はどうしたら良い?』
「夫を、見つけて下さい」
『えぇ⁉︎だってもう亡くなってる筈だよね?何年も前の人間だし』
「はい、亡くなっているのは間違いありません。しかし遺骨が見つかっていないのです。この家から夫の気配を感じます。夫がこの家に眠っている事は間違いないでしょう」
『でも、その…旦那さんの遺骨を見つけてどうするの?』
「一緒にこちらへ」
雛菊さんに促されるままに立ち上がって、奥の方へ付いて行く。私も栗花落家の奥の方へ行くのは初めてだった。
「此処です」
そう言うと扉を開けることもせず、壁をすっとすり抜けて向こう側へ行ってしまった。本当に、幽霊であるのは間違いがないと、この目で見てしまった。
『ほ、本当にいたんだ…幽霊…』
疑っていた訳ではないが、この目で見てしまうと認めるしかない。あまり待たせるのも嫌なのでそろりと扉を開けて部屋を見つめた。
『うわっ…埃が…』
「此処には長らく人が立ち入っていないものですから、すみません」
『い、いや…貴方が謝る必要はないよ…。埃を被ってるのは私の家の人がやってないからだし…』
「そ、そうですね…ではこの背表紙が青い日記を手に取って下さい」
『分かった、これだね?』
「はい」