第45章 Curse!〈栗花落 菖蒲〉
父に栗花落家へ送ってもらい、今私はその門の前にいる。慣れた手つきで門を開け、持っていた鍵で栗花落家へ入った。この家は一応父が管理することになっていたらしい。あの時以来ではあるがそこまで汚れてはいない。誇りは少し被っている程度で、多少掃除すれば何とかなりそうだ。
「来たのですね」
『だ、誰…⁉︎』
「私です。ずっと貴方に声を掛けていました」
『貴方が…』
「居間へ行きましょう。此処で立ち話もなんですから」
私によく似た恐らく幽霊みたいな存在の人に付いていく。髪の色も、背丈も、自分とほぼ変わらない。唯一違うのは瞳の色。
「お掛けになってください。その座布団、まだ使えますから」
『はい』
「お茶も出せずにごめんなさい」
『気にしないで。貴方の事、教えてくれる?』
「はい。まず私の名前は、栗花落 雛菊」
『雛菊さん…』
「私も貴方と同じく翡翠の髪を持ってしまいました。しかし生まれつき体は弱く、長くは生きられないと言われて育ってきたのです」
『じゃあ…』
「私はもう何代も前の人間。当然死んでいるのですが…謂わゆる幽霊のようなものだと思っていただいて結構です。ただ、どうしてもあちら側へはいけない理由がありまして、それを貴方に手伝っていただきたいのです」
さらっととんでもない単語を言って、優雅に会話を進める目の前の幽霊に驚き、口が開いたままだった。取り敢えず死んでいる事は間違いない、らしい。
『分かった。私もこの髪をどうにかしたいの。この髪がどうにかなるというのなら、貴方を手伝ってあげる』
「ならば良かった。私はその髪の力を終わらせる方法を知っています。しかし私はもう死んでしまいましたので、貴方にしか頼めないのです」
『生きているうちかできない、って事?』
「そうです。その方法を今からお伝えします」
自分の向かいに座る雛菊さんは、とても凛としている人だった。背筋は綺麗に伸びているし、所作も優雅で、気品が漂っている。身体が弱いなんて信じられない程に健康そうだ。幽霊だからかもしれないが。
「この髪が力を持ってしまった原因は私の夫にあります。惚気るつもりは全くないのですが、夫婦仲が周りからも絶賛されるほど良くて…それが原因だったのです」
『というと?』
「私は身体が弱く、長くは生きられなかった。そう言いましたね。しかし、夫はその事を受け入れられなかった」