第44章 Memory!〈遠坂 雪音〉
『貴方も、帰りたいの?』
「ええ、早く気付いてくれないかなと、待っているんです」
『その割には動き回っているけど…』
「良いんですよ、その方が」
それ以上、彼女は何も言わなかった。だから私も言わない。少しだけ、彼女の言いたい事が分かったような気がした。
「見えてきました、ほら」
彼女が指差した方向に、加工してない木と、大きな葉っぱでできたお祭りの屋台のようなものがちんまりとそこにあった。屋台の傍には、私達のランプの様な、温かい光が少しだけ周囲を照らしている。
『あそこに行ったら、どうなるの?』
「行けばわかりますよ、きっと」
手を引かれるまま、その屋台へズンズンと進んでいく。そこに人の姿はなく、緑色の古ぼけたアルバムが置かれているだけだった。
「これ、見てみましょう」
『うん』
名前も付けられていないし、誰のものかも分からないのに、何故かこれは自分に関係があるとしっかりと分かった。そっと手に持って1ページ捲る。
『私だ…』
「今なら、はっきりと分かりますね」
『うん、分かる。これが、私だってこと』
私と、もう1人、瑞々しくて艶々とした緑の髪の女の子。この子のことも私は良く知っている、筈なのだ。
「怖がってはだめ」
彼女がそう言ったことで、自分の指が僅かに震えていることが分かった。なぜ、怖いのか分からない。
「さあ、捲って」
辛そうに走っている写真があった。間違いなく経験したことがある。でも此処には帰りたくはないなと思った。
「これを見て、貴方はどう思う?」
『どう思うって、そんなの…』
自分が嫌な事を思い出すみたいな、黒歴史を引っ張り出す感覚だ。次が怖い。
「怖いのね?」
『…うん』
「大丈夫。辛いことだけではないから」
遠慮がちにまた次のページを捲る。先程の女の子とは違うけど、また見覚えがある人だった。紺色の髪に鋭そうな目つき。とても優しそうな人には見えないのに、優しいと分かるのは、どうしてなのか。
『あ…』
「何か、分かりました?」
『私、帰りたいの』
「うん」
『この人の所に、帰りたい』
初めて、指標を掴んだ。間違いない。この人の所へ、私はずっと帰りたかったのだ。
「では、帰りましょう。この人の所へ」
『でも、どうやって?此処は真っ暗なのに』
「灯りがありますよ。はい、これ」
強引にランプを押し付けられた。