第44章 Memory!〈遠坂 雪音〉
『ど、どうしたの?』
「いや…」
さっと血の気が引いたような青白い顔だった。椅子から立ち上がって京介に近付く。
『悪い夢でも見た?』
「お前が」
『ん?』
「お前が、遠くに行ってしまう夢を見たんだ。ごめんと一言言い残して」
酷く動揺していて、ぎゅっと布団を握りしめている。
『大丈夫。どこにも行かない。約束したでしょう』
京介を強く抱きしめた。京介だってとっくに限界だったんだ。表面上は見せないようにしてただけで、本当は私以上にボロボロだったに違いない。
「ああ」
京介も手を回してきついくらいに絞められる。
『いなくならないし、絶対大丈夫』
根拠のない自信だったけど、今くらいはこの自信を頼らないとやっていけなさそうだから。
『大丈夫、夕飯までもう少し寝た方が良いよ。寝てる間はずっとそばにいるから』
「…分かった」
京介を再度寝かせて布団を肩まで掛けてあげた。少しでも京介が安心できたら良いんだけど。
『おやすみ、京介。』
ぽんぽんと頭を少し撫でて、また椅子に戻った。先程のメッセージに封をして机の端に避ける。ドレスの件についてはとても不思議だ。乃愛さんや瑠璃さんとは関わりがあったけど、鬼道 星羅さんはその2人の友人と聞いている。面識はなく、顔すらも知らない。乃愛さんや瑠璃さんからは凄い努力家で、自分で勉強してイタリアの大学を卒業し、今となっては鬼道コーチの奥さんであり鬼道財閥の敏腕社長らしい。何をどうしたらそんな漫画やアニメのチート系主人公の要素てんこ盛りにしたスキルを持ってるのか疑問ではあるが。そんな凄い人から何故私や菖蒲へあんな大量のドレスを送ってくれたんだろう。顔も知らないのに、鬼道 星羅さんはどこで私達のことを知ったのだろうか。あの人に一度会ってみたいな。
「楽しかったな、神童」
「各国の代表にも会えたし、有意義な1日だったな」
早くも神童先輩たちが帰ってきた。あの人達は真面目だから門限の時間まで物凄く余裕がある時間に帰ってきたみたいだ。物音立てると変に勘付かれそうだし、私も寝よう。このまま机に突っ伏して寝るのは好きではないし、ベッドの横に移動して座り込んで寝る方がマシだろう。
『おやすみ、京介』
日本に帰ったらすぐに手術がある。心構えは正直まだできてないけど、菖蒲も頑張っているし、京介も支えてくれてる。私だけ逃げるのは卑怯だ。