第5章 Startle!〈栗花落 菖蒲〉
『太陽なら…絶対大丈夫です。絶対…』
私も多少震えながら、太陽の手術が終わるのを待った。ねぇ、駄目だよ、置いていかないで。雪音も居なくなって…太陽まで居なくなったら…私…。
「手術が終了しました」
『…!』
「太陽君の手術は…」
医者の声が静かな通路に響く。結果を聞きたい様な気もするし、聞きたく無い様な気もする。
「成功しました」
『良かったぁ…』
「君はもう帰りなさい。もう遅い。親御さんも心配しているよ」
『は、はい…』
時計を見ると、もう午後6時を回っている。そうだ、急いで帰らないと…。また明日会いに行こう。それで目一杯説教してやるんだ。
〈菖蒲、何処いるの?〉
〈返事してよ〜〉
姉さんからのラインが大量に来ていた。うわっ…返信しないと。
〈病院にいて気付かなかった。ごめんね。今から帰る〉
それだけ打って急いで家に戻る事にした。明日が日曜日なのが幸いし。明日は部活があるけど、午前中で終わるから、午後には行ける筈だ。
『た、ただいま〜』
「あ〜や〜め〜?」
『ご、ごめんなさい…』
「全く…心配したんだから!」
『姉さん…』
「菖蒲が居なかったら誰がまともなご飯作るの!」
あっ…そこかぁ…。着眼点そこだったかぁ…。仕方ない。門限に遅れたのは私だし、ちゃんと美味しい料理作らなきゃ。
「でも、病院に行ってたって事は…雨宮君?」
『うん…まぁ…。でも殆どは試合を観に行ってたよ』
「試合…?」
『うん。雷門中対新雲学園』
「あっ、サッカーの?」
『そうそう』
「一人で?」
『ううん、友達と』
太陽と言わなかったのは、正直説明するのが面倒臭かったっていうのもある。それに、太陽も他人に自分の状況を話されたく無いだろうと思うし。
「そっか」
『姉さん、夕食何が良い?』
「うーん、ハンバーグ!」
『分かった』
姉さんは私か母が作ったハンバーグしか食べない。スーパーとかで売ってるハンバーグは絶対に食べないのだ。しらばっくれて出してみても、見た目で分かってしまう。
「結局どうだったの?試合は」
『雷門が勝ったよ。次はもう決勝戦だって』
「へぇ〜。行くの?決勝戦」
『うん。一応チケットは貰ってるから』
佐久間コーチから今後の学習の為にと部員にチケットを渡していた。一応参加校であるので学校に生徒用のチケットが配布されるんだとか。私もお溢れで貰ったけど。