第41章 HLHI Ⅶ〈遠坂 雪音〉
『京介…!京介君!』
「…は?」
『私、戻ってきたんです!違う!その私は!』
「え?何がどうなって…?」
『天馬君!お久しぶりです!私です!雪音です!』
ダメだ、出られない。もう私の人格が徹底的に抑えられている。優しい彼女が本当にこんな事するだろうか。実は、他に目的があったりするから…?
(ヴィーナス!いる?)
「なんですか」
(お願い。3分で良い。もう一回あの空間に戻れない?)
「…もう少し待って下さい。魔力の回復には時間がかかります」
この子、自棄になっている。荒療治にも程があるし、あの子が考えそうな事ではあるけど。
「お前…なんで」
『私が戻ってきたのに、どうしてそんな顔するんですか?』
「あいつを、どこにやった」
『どうして、どうしてあの子を心配するんですか。私だけ見て下さい。私だけで良いじゃないですか』
周辺の選手達がざわざわとし始め、何これ修羅場…?状態になっている。
「お前、技と俺から酷い言葉を出させようとしているんだろ」
『そ、そんなわけないじゃないですか』
「お前は本当に自分を癖がある。そうやって俺に否定されて閉じこもるつもりだったんだろ」
『ち、違います』
「そしてお前が嘘をつく時は必ず斜め上を見る」
『え』
やっぱり、それが目的だった。私が罪悪感なくこれからを生きていける様に、わざと自分を傷つけて犠牲にしようとしたんだ。
「準備ができました。今から3分間、空間を展開します」
(ありがと、ヴィーナス)
見覚えのある空間。さっきと同じだ。
(現実ではどうなってる?)
「眠っています。早くしなさい」
(分かった)
彼女と向き合った。どことなく迷いが見えている。京介に言われた事が丸々図星なのだろう。
「ねえ。自分をもう傷付けないで。貴方はもう傷付いてきたでしょう」
『こうでもしなければ、貴方はずっと私を忘れられないでしょう』
「当たり前だよ。貴方を忘れるなんてできない。貴方も私だから。私を忘れるなんてできないよ」
『貴方も、京介君に似てとっても優しいです。貴方を憎めたら、良かったのに…』
そう言って、涙を流した。そっと抱きしめて涙を拭う。
『私の記憶、全部あげます。貴方に』
「でも、そうしたら」
『私、貴方が大好きだから、協力したいんです。どうか、京介君をよろしくお願いします』
彼女の笑顔が、頭に焼き付いて離れない。