第41章 HLHI Ⅶ〈遠坂 雪音〉
その瞬間に幼少期から中学生までの記憶を全て思い出した。彼女が見てきた事、聞いてきた事、初めから壮絶だった。
「雪音!雪音!」
『う…』
陽の光が眩しい。ここ、まだ天界か。
『きょう、すけ』
「戻ってきた、のか」
『…うん』
「あいつは」
『私と一緒になった。物心ついた時から記憶失う時までの記憶が全部戻ってきてちょっとしんどい』
「脳に負担が掛かってるのか。戻るぞ」
『うん…。皆も来てくれたんだ、ありがとう』
天馬達の顔が見える。恐らく急いで駆けつけたのだろう。汗が滲み出ているのが見えた。
「さっきのって…前の雪音?」
『そう。私、二重人格どころか三重だったんだよね…』
「ヴィーナスに関係あるのか」
『うん。そういえばヴィーナスはどこに…』
気付いて上を見上げると、美しい女性が空を飛んでいた。
「ようやっと、終わった様ですね、雪音」
『うん』
「私の役目はここまでです」
『じゃあ、ここでお別れなんだね』
「ええ。貴方には貴方の化身がいるでしょう」
『うん。今までありがとうヴィーナス。私達が未熟な状態で混合しない様に止めていてくれたんでしょ』
「頼まれたので。早く行きなさい。待っている人がいるのでしょう」
『じゃあね。ヴィーナス』
立ち上がって、美しい花園を後にするべく歩き出す。
「お前達が、納得したんだな」
『うん。これでもう大丈夫。あの子の事ももう怖くない』
「そうか」
『あ、菖蒲は⁉︎』
「魔界の連中に攫われて今雨宮や神童先輩達が助けに行っている。他の国のやつも協力してくれて、なんとか11人以上を保っている状況だ」
『助けに行かないと!うっ…』
存外体力の消耗が激しいのか膝をついてしまった。菖蒲が心配だ。私が腕輪なんて見つけなければ。
「お前の仕事は帰って休む事だ。栗花落の事は雨宮達を信じよう」
『…うん』
「ほら、乗れ」
『でも』
「良いから」
結局有無を言わさずな感じで背負われ下山する。私の事が気になっている様なので、今までの事を話しながら下山した。
「俺の事も思い出したというわけか」
『白竜君も相変わらずですね』
「なっ!」
『冗談。心配かけてごめんね。皆ありがとう』
皆気にすんなと言わんばかりに笑う。私の周りにいる人たち、皆優しい人達ばっかりだったんだ。世界に来れて、本当に良かった。
『ありがとね』
聞こえない様に囁いた。