第41章 HLHI Ⅶ〈遠坂 雪音〉
「事故にさえ遭わなければ、ずっと菖蒲ちゃんや京介君と一緒にいられました」
(そう、だね)
「貴方が出てこなければ、私は!」
(じゃあ、私の代わりにこれから前に出る?)
「そうしたら皆さんが混乱するじゃないですか」
(じゃあ、貴方はどうしたいの?)
目の前の彼女は、あれ以来成長していない。聞き分けのいい様で、本当は嫌な、まだ幼い自分。
「…分かりません。貴方が酷く、羨ましいです」
(私も、貴方が羨ましい)
「どうして!貴方はこれから…これからずっと菖蒲ちゃんや京介君と一緒にいる事ができるのに!」
(知らないの?)
「何をですか」
(私の身体、もう長くないかもしれないこと)
「そう、だったんですか」
抑圧されていたから、知らなかったのだろうか。自分の身体なのに。
「でも、でも…そうだとしても。貴方が羨ましいです。京介君の愛を、その身に全て受ける事ができるじゃないですか」
(まぁ、そうなるよね)
「菖蒲ちゃんとだって、きっと毎日楽しく過ごしているんですよね」
(そうだよ。菖蒲は…最近は少し心配だけど、いつも隣にいて支えてくれる。私の大事な人)
「もう、私と皆さんとの記憶は、貴方と皆さんの記憶に塗り替えられているんですね…」
(それは違うよ。絶対に違う)
塗り替えられてなんていない。彼女と皆の記憶は大切に皆の中に仕舞われている。私とは別の思い出。その思い出が彼女だからこそ、私も羨ましい。
(塗り替えられてない記憶が皆の根底にあるからこそ、貴方が羨ましい)
「…私達、案外似たもの同士なのかもしれませんね」
(そうだね。全然、正反対だと思ってた)
「私、少しだけ我儘でした」
(我儘だなんて、そんな)
「でも、今からもっと我儘になっていいですか」
(は?)
「その身体、私にください」
ちょっと待って、幼少期のストレスのせいで性格が捻じ曲がったって聞いてたけど、本当はこういう方向に曲がっちゃった…ってこと?
(い、嫌だよ。それだけは譲れない)
「私も、このまま貴方に居座られるのは嫌です」
『全く…折角場を取り持ったというのに…。私の力ももう保ちません』
(え、ちょ、ちょっと!)
空間に光が差し込んで、元の天界の景色が映り込んだ。でも、また身体の自由が効かない。
「雪音!」
京介の声。それとイナズマジャパンの人も何人か。声を出したいのに、私の身体じゃないみたい。