第41章 HLHI Ⅶ〈遠坂 雪音〉
させない。このままじゃ、京介が巻き込まれる!
『きょ…う、すけ…はな、れて…!』
「雪音⁉︎」
京介の動きが止まる。その位置なら、羽風の影響を受けることも無いだろう。身体の自由が効かない。勝手に空に舞い上がってマグニード山へと飛んでいってしまう。
(何するの…!)
『向き合う時が来たのよ』
(どういう意味?)
『本当に、貴方は過去の自分を受け入れたの?』
(それは…)
『このまま、曖昧なまま過ごしていくの?』
そうだ。結局過去の自分を受け入れきれていない。
『向き合う時よ。今、此処で、折り合いを付けるの』
(嫌だ…そんな事をしたら…)
『今の貴方は壊れてしまう?』
(…)
ヴィーナスの言う通りだった。受け入れきれる余裕が、今の私にはない。正面から向き合ったら、彼女への劣等感で私は壊れてしまう。だって、彼女は完璧だ。優秀で、人当たりも良くて、皆に好かれる。運動が出来ないのは変わらないけど、サッカーだけは彼女の得意分野。菖蒲も、彼女の方が良いのではないかと思ってしまう。ずっと考える事を放棄してきた。
『貴方、こうでもしなくてはずっと逃げていたでしょう』
(私の為に、考える時間をくれたの?)
『このまま3つの人格が貴方の中に眠ったままでは、貴方はそのうち壊れます。それを避ける唯一の方法がこれしかありません』
まだ、過去の私の人格が、私の中に残っている、という事だろうか。彼女と向き合うのは、一番怖い。本当は嫌。
(ここは?)
『天界です。本来はセイン達を呼び起こす必要はありませんでしたが…彼らがいた方が、貴方達のチームの為にもなるでしょう』
(時間稼ぎを?)
『早くしなさい。彼らに、いえ、特別な彼に、見られたくないでしょう』
(…うん)
ヴィーナスが手を振りかざすと、いきなり何もない空間に引き込まれた。私と、もう1人の私、そして金髪の綺麗な女性。恐らくヴィーナス。
「待っていました。貴方がここにやってきてくれるのを」
(わ、私は…)
『よく話し合う事です。貴方達がお互いを受け入れない限り、私は消えません』
という事はつまり、元の人格も、私の事を受け入れられていないという事だ。おとなしいタイプの方が怒ると怖い。何が起こるのか分からない。
(私は)
「私は、貴方が憎いです」
いきなりどストレートに来た。私どうやら憎まれているらしい。