第40章 HLHI Ⅵ〈栗花落 菖蒲〉
「うん」
段々気持ちが落ち着いてきて、抱き付いている状況が恥ずかしくなってきた。どうにかして離れようかと思ったけど太陽の腕が締め付けて離さない。
『そ、そろそろ戻らないと皆心配してるよ』
「もうちょっと」
『あ、後でもできるから!早く戻ろ』
「はーい」
控室に戻ると皆浮かれ気分で、私達に気付いていない様だった。
「皆、そろそろ合宿所に戻るぞ!」
円堂監督の声で、皆荷物を肩にかけ始めた。
「クーラボックス、僕が持つからこっち」
そう言って自分の荷物を私に渡してきた。疲れてるのに申し訳ないから、大丈夫だとクーラボックスを取ろうと思ったんだけど。
「頼ってって言ったでしょ。重いものも持てないほどヘロヘロじゃないから」
『分かったよ…。じゃあそっちの荷物…』
そう言いかけて、唇に柔らかな感触が。
「充電完了!じゃあ行こっか!」
『ばか』
皆もう行った後だったから良いけど、本当にこの男…!
「皆乗ったか?じゃあ行くぞ」
ようやっとバスが走り出し、私も席に着いた。
「それ、雨宮君の?」
『あ、忘れてた…太陽は離れてるか…』
「惚気だねえ。鬼道コーチの事言えないじゃん」
『違っ、これは…その』
「はいはい、照れない照れない」
『雪音だって、剣城君と話してる時恋する乙女の顔してるくせに』
「えっ、ちょ、何もそんな巻き添え食らわせなくても良いじゃん!」
こうなりゃヤケだと雪音も巻き込んだ。こちとら恥ずかしいのとハイなのとで情緒がおかしくなっている。
「菖蒲、宿舎に着くまで寝てな。なんか変だもん」
『うぅ…』
「はいはい、おやすみ。着いたら起こすから」
雪音に促されるままに眠りについた。疲れていたのか、すぐに意識が消えていく。
「…助けて」
私…?いえ、違う。私に似ているけど、目の色が綺麗な桃色。
「貴方しかいない。もう、戻れなくなるわ」
『私に、どうしてほしいの』
「簡単よ、私達を…」
殺してほしいの
そう言われた所で、目が覚めた。雪音が心配そうな顔で此方を見つめている。
「良かった、やっと起きた。魘されてたよ」
『は…』
「はい、水。酷い汗。顔色も悪いし、今日は早く寝たほうがいいよ。明日は休みだから、ちゃんと休んで」
『あ、ありがとう』
殺して、だなんて。そんなの私には出来るわけないのに。
『あの人…一体誰なの』
「あのひと?」