第40章 HLHI Ⅵ〈栗花落 菖蒲〉
『なんでもない』
「もう着いたよ。私先に行ってるから。雨宮君に支えてもらいな」
『え』
横を見ると、太陽が心配そうな顔で此方を除いている。
「菖蒲、大丈夫?」
『うん、大丈夫。今日は早く寝るよ。クーラボックスありがとう。そこに置いといて』
「僕がやっておくから。菖蒲はもう寝て」
『でも』
「良いから」
荷物も取られてしまい、手持ち無沙汰になってしまった。
「魘されてたけど、どうしたの?」
『夢を、見て』
「夢?」
『そう。終始意味がわからなかったんだけど、私に似た人が出てきた』
「菖蒲に似た人?菖蒲自身じゃなくて?」
『そう。目の色が違ったの。その人が…』
「その人が?」
ここから先は、言わない方が良い気がしてきた。日本には言霊と言うものがある。言ったら叶ってしまう。こんな事、口に出してはいけない。
『いや、ここから先は何も…そこで途切れちゃったから』
「そっか」
私に助けを求めているみたいだった。どうして私なんだろう。何か関係ある事なのかな。
『私、お風呂に入ってすぐ寝るよ。後はお願い』
「任せて!」
なんだか、調子が悪い。最近不運なのと、すごく疲れている。個室に付いている簡易風呂でシャワーを浴びた。さっきの夢が頭から離れない。さっきの女性、殺してほしいと言っていたのに、顔はそんな事全く望んでいない様な、そんな表情だった。本当は、殺してほしいわけじゃない気がする。
『ダメだ。考えても分からない』
お風呂場から出て部屋着に着替えた。いきなりこんな夢を見るなんて、最近本当に変だ。
「菖蒲、入るよ」
『どうぞ』
「ごめん、寝る所だった?」
『気にしないで』
太陽が飲み物を持ってきてくれた。太陽の方が疲れてるのに。またやってしまった。
「冷蔵庫に入れておくから、喉乾いたら飲んで」
『うん。ありがとう。ごめん、太陽の方が疲れてるのに』
「僕が入院してた時、いつも手作りのお菓子持ってきてくれたでしょ。僕よりも菖蒲の方が大変な時期だったのに」
『それは、その』
「僕も、菖蒲を助けたいから。辛い時はお互い様でしょ」
『…うん。ありがと』
中学の時もこうしていた。どうしてあの時太陽を熱心に見舞っていたのかは分からない。あの時から既に好きだったのかな。
「おやすみ、菖蒲。今度は良い夢を」
『ありがと、太陽。だい…すき』
そうしてまた眠りへ落ちていく。