第40章 HLHI Ⅵ〈栗花落 菖蒲〉
試合終了のホイッスルが鳴る。私達が勝った瞬間だった。
『はぁ…』
ズルズルとベンチからずり落ちた。安心してしまってペタンと座り込んでしまう。
「だ、大丈夫⁉︎菖蒲」
『腰、抜けた』
「はぁ⁉︎」
安心しちゃって、というのと緊張から解放されたからというのがあるだろう。なんとかベンチに手をついて膝を笑わせながら立ち上がった。
「うわ、マジで生まれたての子鹿」
『も、もう。私が一番困ってるんだからそんな笑わないでよ』
「はいはい。ほら、支えてるから」
『ありがと、助かる』
雪音に支えて貰ってようやっと腰が据わってきた。今なら歩ける。
『キツいお灸、据えなきゃね』
「ひっ」
『私、割と怒ってるんだよね。勝手にマネージャー移籍だの、貰うだの言ってたけど、本人の意思無視してくれちゃって。そろそろ腑が煮えくり返ってるっていうか』
「菖蒲怒らせると怖いの、相手は知らないもんな…」
皆がゾロゾロと控室へ戻り、お客さんも段々引いていった。フィールドに残されたのは、私とレオ・ミッドナイトの2人。
『貴方、本当は何者なんですか』
「貴方を愛する、ただの男ですよ」
『…話したくないなら別に良いですけど、ちょっと屈んでもらっても?』
「…?こうですか?」
あ、素直に従ってくれるんだ。
『失礼』
ネットの記事で勉強した最大威力のビンタをお見舞いした。
「え…」
『この際貴方の正体とかもうどうでも良いですけど、女の子の同意もなしに勝手に移籍とかあり得ないですから!女性を口説くの100億年早い!胎児からやり直して!』
「た、胎児からやり直すのは流石に無理がありますが」
『そういうとこ!女心のおの字も分かんない人が女の子口説くのは1000億年早いです!』
「さっきよりも年数が…」
『そういう事ですから!さよなら!2度と顔見せんなエセナルシスト!』
「えぇ…」
取り敢えず言いたい事全部言えた。もうどうせ会わないだろうと思って、ズバズバ言ってしまって申し訳ないが、取り敢えず女心を学んでから次の女の子を口説いてやってほしい。
「おかえり」
『ただいま』
なんだか、急に温もりを感じたくなって抱き着いた。いつもと変わらないふわふわと香るお日様の匂い。
「うわわ…」
『良かった…』
「お疲れ様。最初から守れなくてごめんね」
『勝ってくれたから。それだけでいいよ』