第40章 HLHI Ⅵ〈栗花落 菖蒲〉
降ろした荷物をベンチに持っていって色々準備。雪音も今日は色々手伝ってくれている。試合の日は雪音がこうして手伝ってくれるのだ。
「ご機嫌よう、レディ。いえ、菖蒲と呼ぶべきかな」
『おはようございます』
また厄介な奴に絡まれたと気が重くなってくる。
『すみません、やる事があるの…で⁉︎』
「おや、つれない」
いつの間にか私の前に回り込んで私の腕を捕まえている。こいつ、私と同じ匂いがする。
『レディに許可なく触るだなんて、貴方、本当にジェントルマンの国の人ですか?』
そう言いながら相手の体制を崩して、転ばせた。
『本当は試合前に怪我させるのは良くないんですけど、あまりに耐えられないからうっかりやってしまいました。許して下さいね』
「ふふ、貴方も一筋縄ではいかない人の様だ」
『ごめんなさい。好きでもない人に触られるのは、嫌なので』
ニッコニコの笑顔でそう言いながらベンチに戻った。すると皆が凄い顔でこっちを見てくる。
『え、何?』
「いや、お前実は凄い奴だったんだな…」
『ああ、体術には自信があるので』
「そんなあっさりと…」
『選手の身体を傷付けたら問題になりそうですし、仕方ないので衝撃を最小限に抑えておきました』
「な、なんでしょう、この溢れ出る強者感…」
と言っても、恐怖が勝って大体なんとかならない。今回の場合、恐怖よりも苛立ちが勝った故にこうなっただけ。
『そんな事ないです。さぁ、皆試合頑張って下さい』
取り敢えず試合の行く末を見守るしかないが、女の子の意見も聞かずに強引に押し通そうとする人に負けるはずがない、と信じるしかない。
「菖蒲って、こういう時器用というか不器用というか」
『そうなんだよね…私もこういう時に上手く立ち回れる様になりたいよ』
「それも菖蒲の良い所だとは思うけどね。人間関係大事にしてるの、分かるよ」
『そんな事ないよ。さっき選手に割と酷い事言っちゃったし』
「でもそれまではちゃんと上手く躱せてたじゃん」
『吹っ切れないだけだよ。優柔不断』
そう言ってベンチに座った。皆神妙な面持ちで座っていて、監督もちょっとだけいつもと様子が違う。
「栗花落」
『はい』
「大丈夫か」
『ええ。慣れてますから。その時はその時だと思ってますし』
「あまり、強いふりをしない方がいい」
『コーチって、こういう変化気付くタイプなんですね』