第40章 HLHI Ⅵ〈栗花落 菖蒲〉
狩屋君と仲直りできてルンルンだったから思い切り忘れていた。そういえば私危ないんだった。
『ま、まぁまぁ私の事は気にせずに、皆は試合に集中してよ。こういうのは慣れてるから』
「不幸体質もここまで来ると厄介だね、菖蒲」
『いやいや、不幸体質とはちょっと違うんだけど…』
雪音に言われて訂正するが実のところそんなに変わらない気がしてきた。
『て、天馬。上手いこと皆の士気上げられない…?』
「え、えぇ⁉︎うーん…」
確かに天馬はすぐに気の利いたこと言えるタイプじゃないけど…。
「確かに、菖蒲の事も大事だけど、一番大事なのは試合で俺達の力を出し切ることだよ!皆のサッカーが好きな気持ちを思い出してよ!」
正直あまり期待はしてなかったが、流石キャプテン。安心感がある。皆の雰囲気もお葬式から段々柔らかくなってきた。
「菖蒲!一緒に食べようよ!」
『はいはい』
「今日は絶対勝つよ!」
『うん。よろしく』
いつも通りに太陽の向かいに座って、いつも通りの量のご飯を装って、いつも通りだけどそうじゃない感が拭えない。でも渦中すぎてどこか他人事に思えてしまう。
「菖蒲、あんまり困ってないね」
『そうだね。なんか自分のことだと思えないから、こんなに余裕なんだろうなあ』
「絶対に、2度とこんな思いさせないから」
『…そうだね』
これは、太陽のせいではない。全て私に原因がある。
『ご馳走様。食器洗ってくる』
「食欲ないの?」
『太陽にあげる。私の分までフィールドで駆け抜けてきて』
「分かった」
残った分を太陽に全てあげた。思ったより、いつも通りではないのかもしれない。自分じゃよく分からないのは困り物だ。
「積み込み終わったよ。あとは何かやること残ってる?」
『大丈夫だと思う。丁度洗い物終わったし、準備して良いよ』
「はーい」
私も最後の荷物点検と、ジャージを羽織ってバスへと乗り込んだ。
「大丈夫?顔色悪いけど」
『え、そう?なんともないんだけど…』
「うーん…気のせいか。なんかあったら言ってね」
『うん。ありがと』
行きのバスは驚くくらい静かで、皆集中していた。正直引きこもっていたいけど、逃げてはダメだ。見届けなくては。
「着いたぞ」
「ありがとうございます!皆、行こう!」
天馬の言葉に皆で返事してバスを降りていく。最後に忘れ物がないか確認して、皆の元へ向かった。