第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
『…ごめん』
「何かあった?」
『い、いや、大丈夫!というか本当にごめんね。私もこうなるとは思ってなかったというか…』
この醜い感情を隠した。子供っぽいし、最低だ。
「隠さないで」
『ひぇ』
嫌な部分を見せるのは本当に嫌いだ。これ以上私を、嫌な私を見ないで。
『い、いやだ』
「でも」
『ど、どうしても嫌だ!』
好きな人だから、見られたくないのだ。この嫌な部分は墓場まで持っていく。太陽なら笑って受け入れそうだが、それに甘んじるのはもうやめたの。
『私達には、秘密だって必要だよ』
そう言って窓の方を向いた。いつでも選択の連続だ。これは逃げたのだろうか、それとも戦略的撤退?もう考えるのさえもやめにしたい。
「菖蒲、何か変だよ」
『変じゃない。絶対、変じゃない』
「…分かったよ。後で、話そう」
黒い手袋は秘密を隠すのに最適だ。綺麗な衣装を秘密を隠す為に使うなんて、私は本当に最低だ。
「おーい!合宿所に着いたぞ!」
運転手さんが目的地に着いた事を伝える。皆がまた降りていく。私は太陽が立たないと降りられない。
『ちょっと、太陽』
「いつもの菖蒲らしくないよ」
『え、あ、ちょ…』
「菖蒲の馬鹿!」
太陽が勢いよくバスから降りていった。私、また酷いことしたのかな。でも、言いたくないんだ。
『太陽…』
「追わなくて良いのか」
『おじさん…』
運転手のおじさんが見兼ねて声をかけてくれた。追いかけて、私は何を言えばいいのだろう。
『でも、私、何て言えば良いか』
「考えても分かんないなら、自分の思った事を言うしかねえよ」
『思ったこと…』
「人間、言わなくてもわかるって言うのは奇跡、伝説だ。何の為に口があると思ってんだ」
『そっか…ありがとう、おじさん。ちょっと行ってきます』
「おう」
バスを降りて、宿舎の方に向かった。太陽はどこにいるだろうか。
「あ、菖蒲!」
『天馬。太陽見てない?』
「太陽?部屋に戻ってったよ」
『ありがとう』
階段を登って太陽の部屋を訪ねた。まずは、謝るところから。太陽を悲しい気持ちにさせてしまった事、私蓮華じゃないんだから、太陽とは話し合わなきゃ分からない。何度も何度も同じ事があった。その度に話し合って、分かりあってきたんだ。
『太陽、入るね』
鍵がかかってないことは知ってた。私は、まだ1番大事な事を、伝えてない。