第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
「何かな、レディ」
『その勝負、試合の時にしませんか。軽々しく決めて良いような事でもないような気がして…!』
いや間違いなく軽々しく決めちゃいけないけど、ここは兎に角抑えてもらわなくては。厄介な人に好かれるのは相変わらずなのをなんとかしたい。
「そうでしたね。試合で決めましょうか。私達が勝った暁には、彼女を貰いますよ。良いですね?」
『全く良くないけど…分かりました』
「では明日、グラウンドで決着を付けましょう」
煌めく艶めいた髪を綺麗に靡かせてイギリス代表は去っていった。あまりに強引すぎるが、太陽のいう通りジェントルマンはどこへ行ったという感想しか出てこない。
『あ〜…もう、いつもいつも…』
「いつも?」
貴志部君が聞いてきたが、まぁ確かにそういう反応になるだろう。
『なんか、私変な人に好かれやすい体質らしくて…』
「その理論だと雨宮君が変な人って事になるけど…」
『まぁ間違ってないしね』
「えっ、酷い」
『太陽』
横を見ると太陽がショックを受けている。まぁ普通ではない。普通の人は10年に1人の天才とは呼ばれないし、サッカーで認められてこの場にいることもないだろう。
「でも良かった。菖蒲が無事で…」
「本当ですよ。マネージャーがイギリスに行っちゃうのは困ります」
『なんか心配させてちゃってごめんね。というか私の今後の身を皆に任せることになっちゃったんだけど』
「大丈夫。菖蒲は絶対にイナズマジャパンにいてもらう。こういうの、地雷を踏まれたって言うんだっけ?」
珍しく目が笑っていない笑い方をしていた。残りの皆もそうだった。
「俺達のオアシスが取られたら困るからな」
「サポートが無くなって困るのは俺たちだ。全力で戦う」
「皆!菖蒲がイギリスに行かないように明日の試合、絶対勝とう!」
天馬が士気を上げたところで今日は解散。皆わらわらとバスへ乗り込んだが雪音と剣城君の姿が見当たらない。
「雪音ちゃん達なら先に帰ったよ。雪音ちゃんの体調が優れなかったみたいで」
『大丈夫かな…』
「大丈夫だよ。剣城君もついてるから」
『うん。そうだよね』
後の事は剣城君に任せよう。自分の置かれている状況の方が厄介だ。
「菖蒲、今回は試合でなんとかなるから良いけど、本当に気を付けて。お願いだから」
縋るように言われて、私はこの人を傷付けたんだと、悲しくなってきた。