第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
「菖蒲の馬鹿」
『うん。ごめんね。太陽を悲しい気持ちにさせちゃった。今、話すから聞いてくれる?』
暗い部屋の中で静かに頷いた。太陽だって、こんな風にいじける事あるんだな。黒い手袋を取って、太陽に預ける。秘密は必要だけど、必要な場面を履き違えちゃダメだ。
『私、行きのバスの中で、なんとなく自分が頼られてない気がしてというか、信じられてない気がして、寂しくなっちゃったんだよ』
「え…」
『雪音が言った事なら信じるんだ〜って、嫉妬、しちゃったんだよ。だからこんな嫌な部分を知られたくなくて』
「僕のせいじゃん…」
『どっちのせいとかないよ。また、こうやって話し合って解決しよう。分からないのは当たり前だよ。テレパシーなんて使えないもの』
「そうだね、うん、そうだ!」
『いつもの太陽だ』
隠すのは、相手を傷つける事もある。雪音がこの前言っていたような気がする。秘密の使い方って、コミュニケーションを取る上で大事なんだ。また一つ勉強になったな。
「ごめん、菖蒲。僕も菖蒲を悲しい気持ちにさせちゃった」
『ううん。気にしないで。太陽とまたこうして話し合えて良かった』
私はまだまだ未熟。だからぶつかり合うしかない。
「綺麗、菖蒲」
『えっ、急に何⁉︎』
「手袋、あっても綺麗だけど、この菖蒲は僕が独り占めできる」
『え、えぇ…?』
太陽って、いじけた後、吹っ切れたらこうなるのか。いつも私の方がメンタルケアして貰ってたから知らなかった。太陽も、もっと甘えたかったのかな。ずっと病院のベッドの上だったわけだし、満足には甘えられてないかもしれない。
『しょうがないなぁ…今日だけだよ』
まだヘアセットが解けてないオールバックの髪。お互いに今日はちょっと背伸び。
『ドレス、結局自分で選べなかった。自分の好きなもの、分からなかった。雪音に選んでもらった。色んな事考えちゃうんだよ。私に似合ってるかなとか、どの色が良いのかとか。でも、綺麗だって言ってもらえたから、嬉しい。緑、好きになったんだ』
「そっか。一歩前進だね!」
『うん。ありがとう、太陽』
いつか、このドレスに恥じない様な私になりたい。自分に自信を持てるように。緑も、今までなんて事ないただの色だと思ってたけど、綺麗って言ってもらえただけでこんなに嬉しくなる。好きになっていく。
『また明日から、頑張ろうね』
「うん!」