第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
「それにしても、本当に美しい髪だ」
ゆっくりと、相手の手が近づいてくる。怖い。
「ふふ、そんなに震えて、まるでバンビのようだ」
『あ、あの…』
「失礼。あまりにも反応が可愛らしいものだから。おっと、自己紹介がまだでしたね。私はレオ・ミッドナイト。ナイツオブクイーンのFWです」
いきなり自己紹介をされて驚いてしまった。見た事がある顔だと思ったら、彼が現ナイツオブクイーンのキャプテンだった訳だ。
『それに、キャプテンを務めていますよね』
「私の事を知っていて下さったのですね。嬉しいです。レディの名前を伺っても?」
『は、はい。私は栗花落 菖蒲です。イナズマジャパンのマネージャーを務めています』
「凛とした気高い名前だ。その名前、覚えました」
『は、はぁ』
「良ければこの後は私と一緒にどうでしょう」
あっ、この誘いは断ってはいけないやつ…?太陽に大口叩いておいて私が一番分かってない。恥ずかしくなってきた。
『え、えぇ…もちろ…』
「すみません。彼女は僕と回る予定なんです」
『た、太陽…』
「おや、彼女は私と回る気でしたが…貴方は?」
『僕は雨宮 太陽。菖蒲のボーイフレンドです』
「ふふ、ちょうど良いではないですか。彼女をかけて、勝負をしましょう」
ちょっと待って。なんか私が巻き込まれる形になってる気がするんだけど…?
「私が勝てば、彼女は私達のマネージャーとします」
『はぁ⁉︎』
「感心しませんね。女性を巻き込むだなんて、ジェントルマンの国が聞いて呆れるな」
「おや、では辞退すると?」
「まぁ、僕が勝つので渡しませんが」
これ以上ないくらい2人ともニッコニコの愛想笑いを浮かべている。これ、私の為に争わないで的な展開なのかな。もう頭が痛くなってきた。今すぐジャパンエリアに、いや家に帰らせてほしい。
『あ、あの。ルール的にマネージャーを奪い合うのは厳しいのでは…』
「おや、可能ですよ。10年前と基本的に変わりはないですからね」
『えぇ…』
「待ってて、菖蒲。菖蒲は安心してここにいて。菖蒲を物のように扱われるのはもう沢山なんだ」
『太陽…』
ちゃんと、考えてくれていたんだな。なのに変に突っかかって、八つ当たりして、私は最低だ。こんなに私を大事にしてくれる人、他にいないって言うのに。慢心しちゃダメだ。彼に甘えたままでは。
『ま、待って下さい!』