第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
すぐに皆がバスへと乗り込んできて、私達はいかにも何もしてませんというような素振りで世間話をしていた。ここで顔真っ赤にしてたら余計に冷やかされてしまう。
「っていうか僕パーティーの作法とか何も知らないんだけど⁉︎」
『今更勉強したってどうせ覚えられないでしょう。監督が教えないって事は普通にしてれば大丈夫って事』
「菖蒲は冷静だなあ」
『監督たちが中学の時も同じような事があったって聞いたし、大丈夫でしょう』
中学生がパーティーの作法を覚えてる可能性は低い。高校生も然り。日本の高校生なんてそうそうパーティーになんて行かないから分からなくても当然だろう。
「雪音ちゃんに聞いとけばよかった〜」
『雪音も別に普通にしてればいいって言ってたよ』
「え、そうなんだ」
雪音が言ったなら安心するんだ。まぁ元社長令嬢だし当たり前か。こんな事で一々落ち込んでいたらやってられないのに、ダメだなあ。
「菖蒲、どうかした?」
『別に』
どこの女優ですかと言わんばかりな塩対応になってしまった。素直に嫉妬できれば可愛がられたのかもしれないけれど、私はそういうのは得意じゃない。
「あ、会場に着いたって!行こう」
『うん、そうだね』
太陽に続いて席を立ち、敢えて階段を下る時太陽の手に触れずに降りた。八つ当たりもいいところである。
「何かあった?菖蒲」
『別に、何もないってば』
無自覚なのが余計に悔しくなって、太陽から離れた。イギリスの選手たちが既に会場に待っていて、皆顔の彫りが深くて日本とは違うんだなあと感じる。
「おや、素敵なレディ」
『わ、私の事でしょうか…』
「ええ、そうですよ。素敵な緑の髪をお持ちのレディ」
『あ、ありがとうございます。貴方も、同じように綺麗な髪ですね』
「嬉しい事を言ってくれる。実は髪の手入れにはかなり拘っていまして」
確かに、そう言われても全く違和感のない程、艶めいた綺麗な髪だ。夜の風にそよそよと靡いて美しい。尚且つ顔も良い。モテるんだろうなあと思いはしたが、決して口には出さないのは当たり前。
『とても羨ましいです。綺麗な髪で、相当努力なさっているんですね』
「努力を認めてもらえるのは嬉しいですね。レディもとても綺麗だ。髪だけでなく、その上品さもね」
『あ、ありがとうございます。光栄です』
イギリスの人達って日常生活でこんな会話してるの…?