第39章 HLHI Ⅴ〈栗花落 菖蒲〉
雪音と一緒に選んだ深い緑の膝丈のドレス。腰回りにリボンが付いていて引き締まった印象を与える。黒のパンプスと黒のレースでできたショートグローブ。レディになれたような気がした。
「わぁ…!」
「2人とも素敵だな」
「あ、ありがとうございます」
『は、恥ずかしい…』
「ほら、雨宮君の所行ってきなよ。迎えきてるし」
『雪音の意地悪』
「はいはい。ほら行った行った」
結局雪音に急かされて、渋々太陽のところへ来た。周りの人から冷やかされて、頭から火が出てしまいそう。
「綺麗だよ、菖蒲」
『あ、ありがとう…』
いつもストレートで思いをぶつけてくるから、こっちが毎回照れる羽目になるのだ。周りからはひゅーひゅーと口笛みたいなものも聞こえてくるし、今すぐこの場から消えてしまいたい。
『太陽も、いつもと違うね…なんか、こう…うーん』
「えっどこか変⁉︎」
『ち、違くて、変とかじゃないけど、その』
人前で言うのは恥ずかしい。周りの好奇に満ちた目が少し怖い。
「ね、もうバス来てるから外に行こう。先に乗って待ってようよ」
『あ、うん』
結局伝えられない。ちゃんとポジティブな事は伝えていきたいと思ったんだけど、まだハードルが高いような気がして。
「階段、気を付けて」
『うん』
ジェントルマンよろしく手を差し出してくれる。あまりにそれは刺激が強い。
「まだ誰もきてないから、さっきの続き、聞かせて」
耳元で言われたら流石に意識してしまうわけで、逆らえないのだ。
『あの、髪型が。いつもと違くて、カッコいいなというか、キュンとしたと言うか』
絶対に最後の一言余計だった。やってしまった。カッコいいなで終わらせれば良かったのに。
「キュンってしてくれたんだ?」
オールバックにしてワックスで固めたであろう艶めいた髪が光った。変だ。こんなの。
「ね、キスしていい?」
『へっ⁉︎』
「みんなが来る前に、一回だけ」
『い、いい、けど』
「やった」
ちゅ、と首に口付けて、そこからすぐに私の唇を奪った。リップの事も考慮して軽く触れ合うレベルだ。何故か物足りない気もする。
「物足りないって顔してる」
『そ、そんな事ない!もう皆乗ってくるんだから普通にしてて!』
知らない間にもっと深いキスが私の中で普通として根付いてしまっている事に気が付いてしまった。太陽のせいだ。