第38章 HLHI Ⅳ〈遠坂 雪音〉
余計に惨めだ。褒めてくれるかなって期待したけど、自分のせいで全て台無し。嫌になってくる。私はいつもこうだ。
『はぁ』
「何かあったのか」
『いーえ?何も?』
ちょっとだけ不機嫌を出してみた。気付いてくれなかっただけで八つ当たりして馬鹿みたい。せっせかバスに乗り込んでは会話もなく窓の外の景色をただ眺めるだけ。こんな自分が死ぬほど嫌い。
「ちょっとぉ剣城君。雪音がイラついてるけどなんかあったの?」
「いや…」
ギロッと京介とマサキを睨みつけた。マサキがヒィと言ってモニョモニョと口を動かす。もう良いよ。私が悪いのは分かってるけど、にしたってノーコメントは酷いから。
「もしかしてだけどさ、雪音の格好について?」
『よく分かってんじゃんマサキ』
「…」
忘れてたと言わんばかりに眉間をモミモミし始める隣の男。誰かなんとかしてくれないか。
「あーあ。剣城君それはダメだよ。俺しーらないっと」
恐らく全部京介に丸投げしたのだろう。それは正解である。好きな男以外に言われてもお世辞にしか聞こえないから。
『で、どーですか』
「可愛い、綺麗、だ」
『カタコトだなあ。言うのも遅いし』
「それ、文化祭で着てたやつだろ」
『そう。偶々見つけたから着てみたのに。何にも言われないし、メイクも、髪型も、頑張ったのに本当に何も言われないし。パーティー会場行っても言われなかったら有無を言わさず帰るとこだった』
そう言うとギョッとした顔してすぐに安心したような顔をする。お前が安心するな。
『馬鹿。きらい』
「は」
あからさまに慌て出すが、知ったことか。体調心配してくれたのは嬉しかったけど、君がこの見た目褒めてくれたらパーティーだって楽しめそうな気がしてたから。
『やっぱ、きらい』
「わ、悪かった」
『良いよ。嫌いなのは京介じゃない』
でもあんまり慌てられると逆に不憫だから許しちゃう。実際嫌いなのは自分とパーティーであって、横にいる人を嫌いになる事は暫くないだろう。
「着いたな」
先に立って手を貸してくれる。バスから降りる時も下で待って、ちゃんと手を貸してくれる。こういうところ、本当に好き。私ってチョロいんだなあ。
『ありがとう』
降りて少し歩くとパーティ会場が見えてきて、いかにも紳士って感じの人達が立っていた。
「久し振りだね」
「エドガー!お前だったのか!」