第38章 HLHI Ⅳ〈遠坂 雪音〉
本物のエドガー・バルチナス…?確かイギリスのリーグで活躍してたはずだけど。
「ああ、皆不思議そうな顔しているね。HLHIからは私が監督を務める事になったんだ」
また随分な路線変更だと思いつつ聞いていた。不意にエドガー監督が私を見た。視線が、怖い。逃げるように京介の後ろへ隠れた。
「恥ずかしがりなお嬢さんな様だね」
「雪音?」
『だからパーティーは嫌なんだってば…』
軽い話も終わって乾杯も終わる。会食が始まるが、少しだけ食べて後は隅の方に逃げた。この場から早く消えてしまいたい。
「こんにちは。イナズマジャパンのマネージャーですね?」
『ええ。遠坂 雪音と言います』
最悪だと思いながら薄ら笑いを貼り付けて対応した。上手く笑えているだろうか。
「とてもお綺麗だ」
『ありがとうございます』
「この後、宜しければご一緒しても?」
『え、あ…』
流石にちょっとそれは厳しい。どうにかして断る?いや、それではイナズマジャパンの印象が悪くなる。仕方ない。ここは…。
「悪い、遅くなった」
『京介…』
「おや、連れの方を待っていらっしゃったんですね。失礼いたしました」
『いえ、お話できて楽しかったです。また試合でお会い致しましょう』
相手が離れたのを見て、溜息を吐いた。京介が来なかったら流石にやばかった。
「帰るぞ」
『え?』
「これ以上は認められない」
『でも、ここで抜けたら』
「お前の体調以上に大事か、これは」
『…そうだけどさあ』
「行くぞ」
私の手を引いて会場を抜けた。監督にも一言言って。本当によく見てるなあ。
「乗れ」
会場を抜けてすぐに私を負ぶってくれる様だ。彼らしい。
『ありがとう』
「大人しくしてろ」
『はーい』
ついでにジャケット私に渡してくれた。これを羽織っていろって事だろう。
『注文多くて悪いけど、歩いてくれる?揺れると気持ち悪くて』
「分かった」
ゆっくりとなるべく揺らさない様に歩いてくれてる。申し訳ないな。だめだなあ。
『あのね。飛行機に乗った時にヴィーナスと話ができたの』
「ヴィーナス?」
『覚えてなくても仕方ないか。多分私が中学生の時にフィフスセクターでの訓練で強制的に開花させられた化身だと思ってたんだけど…』
「違うのか?」
『よく…分からない。あの事故以前の事は、今でも曖昧だから。というかほぼ覚えてない』