第38章 HLHI Ⅳ〈遠坂 雪音〉
「雪音こそ、無理しないでいいのに」
『無理でもしないとやっていけないよ。私は』
呆れたように吐き出した。私も菖蒲もお互いに無理しないと生きていけないタイプ。こういうことばっかりしてるから心配されるのだ。
「そうだね」
『髪の毛、やってあげる。おいで菖蒲』
「助かる」
短くなった菖蒲の髪をするりと撫でて、櫛で溶かしていく。相変わらず艶々とした綺麗な髪だ。トップの髪をくるりんぱしてサイドをロープ編みした。あとはそれっぽくほぐして、余った髪はミックスに巻いていく。パーティでこそゆるふわを出すのは大事だ。
『はい、できたよ』
「流石。ありがと」
『どーいたしまして』
菖蒲のを終わらせたのは良いけど、自分の髪型はどうしよう。メイクする間に決めちゃおうかな。
『メイクどうする?』
「いつもよりちょっと凝ってるくらいかな」
『はーい』
ピンクメイクだけど今日はデパコスのリキッドアイシャドウ。パーティくらい贅沢したっていいでしょう。このメイクなら髪型は少し凝ってもいいか。
「今日は一段と可愛いね。私達」
『間違いない。私も早く髪の毛どうにかしなきゃ』
後れ毛を残してサイドを三つ編み。結ぶ前にゆるーくほぐしてあとは後ろ中央にまとめてシニヨンに。前髪と後れ毛をクルクルとヘアアイロンで巻いて完成。我ながら悪くない出来。
「雪音、手袋」
『ん、ありがと』
菖蒲は黒、私は白のショートグローブを付けて更衣室を出た。外には男子達が既に待っている。
「わぁ…!」
「2人とも素敵だな」
『あ、ありがとうございます』
「は、恥ずかしい…」
『ほら、雨宮君の所行ってきなよ。迎えきてるし』
「雪音の意地悪」
『はいはい。ほら行った行った』
背中を押して雨宮君のところに行かせたけど、自分はあまりに手持ち無沙汰だった。なんだか惨めで、あの北大路の時のパーティーが頭から離れない。
「雪音」
『京介』
「やっぱり顔色が悪いぞ」
『そんな事ない。大丈夫。気のせい』
自分に言い聞かせるように言った。本当は嫌だ、行きたくない。パーティーは嫌いだ。人が、怖い。
「休んでいた方が良いんじゃないのか」
『せっかく着替えたのに、それもそれで嫌だなあ』
「…辛くなったらすぐに言え。行くぞ」
『はぁい』
何も、見た目について言ってくれなかったな。一回見たからもう良いって感じかな。馬鹿みたい。