第37章 HLHI Ⅲ〈栗花落 菖蒲〉
髪が短いだけあって直ぐに乾いてしまいそうだ。後数分でふわっふわに乾くことだろう。
『ありがとね、太陽』
「え、何か言った?」
『何も言ってないよ。はい。終わり』
「ありがと!」
ちゃんと元気さが伝わってくるあたり、太陽だな~って感じる。特にこれが太陽!って一言で言い表すことは難しいが、とにかくそういう感じなのだ。
「ドライヤー戻してくる」
『いってらっしゃい』
膝立ちしていたのをペタンと座り込んで一息ついた。今日からは厳しいけど明日からなら頑張れそう。太陽にたくさん元気をもらったから。
「ただいま」
『おかえり』
「もうそろそろ寝よっか」
『そうだね』
もそもそと立ち上がりベッドへ向かった。必然的に前回お泊りした時のことを思い出してしまう。
「きょ、今日はしないよ」
『へぇ~』
「何?」
『私は準備できてるけど』
「えっ」
『キスだけなら』
太陽がアワアワし始めて、この前とは逆だなあと思ってニヤけてしまった。私も段々耐性が付いてきたってことだろうか。
『とりあえずベッドに行こうよ』
「う、うん」
ふたりでゴロゴロと寝転がった。私が奥側で太陽が外側。何故かお互い向き合う形になっている。
『ん』
「え」
『いいの?このまま寝ちゃうけど』
「だってキスだけで終わる自信ないし…」
『そこは努力していただいて』
「うぅ~!」
悶えるかのように少し悩んだ後、私に控えめに口づけた。
『もっと』
「もっと⁉」
『うん。もっと。怖いの、消して』
「…」
先ほどの控えめなものから、ちゅ、ちゅと啄む様にバードキスを始めた。
『んぅ…』
「菖蒲」
求めるように私の名前を呼ぶ目の前のひとがこんなにも愛おしい。キスだけで終われないかもという太陽の気持ちが分かる気がした。
「終われそうにないんだけど、どう?」
『だめ』
「どうしても?」
『だめ。そういう約束でしょ』
「はーい…」
急にしょんぼりしだす太陽が面白い。それにキス以上の事ができる体力が残ってない。
「せめて抱きしめながら寝ていい?」
『いいよ。二人で一緒に寝よ』
太陽の腕と優しい匂いに包まれていく。寝る前に少し疲れることをしたからか、スムーズに瞼が下りていく。
「おやすみ、菖蒲」
『…うん』
優しい声に耳を擽られて、今日はよく眠れそうだ。とても、ふわふわして、もう夢見心地なのだから。