第37章 HLHI Ⅲ〈栗花落 菖蒲〉
「ただいま」
『お、おかえり』
「落ち着いた?」
『うん…ありがとう』
太陽が水が入ったピッチャーとコップを持って部屋に入ってきた。氷がカラカラと音を立てる。
「お水飲んで少し待ってて。僕もお風呂入ってくる。今日は早めに二人で寝よう」
『うん。そう、だね』
太陽がそう言って部屋から出て行ったのを見届けて、私はちびちびとキンキンに冷えた水に口を付けた。泣くと顔周辺が熱くなるが、冷えた水のおかげでなんとか熱が消えていくような気がした。
『あ、雪音からラインきてる』
私の事を心配して伝えてくれたみたいだ。剣城君経由で伝わったのだろう。私は大丈夫という事と、感謝をメッセージに起こして送信した。
太陽がお風呂から上がってくるまでかなり暇なので、スマホを弄るしかない。今日あったこととかが一気にネットニュースで見れるけど、今はあまり見たくないのでそっと閉じてゲームの画面を開いた。
『そういえば、今日からだっけこのガチャ…』
最近色々忙しすぎて忘れていた。いつも暇つぶし程度にやってるゲームだから全く進んでないけど、ガチャを回すのはそこそこにスリルがあって楽しい。そもそもあんまり遊ばないから石が溜まらないけど。
「ただいまー!!」
『えっあっおかえり。随分早いけど…髪乾かしてないじゃん。乾かさないと』
「え~いいよ。どうせすぐ乾くもん」
『今なら、私が直々に乾かしますけど、どうですか?彼氏限定で無料サービスなんですけど』
「えっ乾かしてもらう!ちょっと待ってドライヤー持ってくる!」
慌ただしいのはいつになっても変わらないなあと思いつつ、少しだけ微笑んでスマホの画面に目を落とした。家族から心配するラインが来ている。それぞれに大丈夫だと返して再びスリープにした。だってもうそろそろ彼が階段を駆け上がって部屋に来る頃だから。
「菖蒲!ドライヤー持ってきた!」
『はいはい。じゃあそこに座って』
「はーい!」
至極嬉しそうな顔しながら座ってくれるものだから、私も嬉しくなってしまう。そんな不思議な魅力がある人だ。彼は。
『じゃあ乾かすよ』
「うん!」
電源を入れた途端にゴワー!と凄まじい音が鳴る。割とこのドライヤー高火力らしい。
『うわうるっさ』
「え?何?」
『何でもない!』
声張り上げないと会話できないやつだ。太陽が喋っているのか、喋っていないのかも分からない。