第37章 HLHI Ⅲ〈栗花落 菖蒲〉
なんだかよく分からないけど涙が出そうになって、なんとか踏ん張った。いけないいけない。すぐ泣くのはもうやめなきゃ。
「あらあら嬉しいわ」
お母さんが作る料理ってなんでこんなに安心感あるんだろうな。ほかほか温かくなってしまう。
『ご馳走様でした。美味しかったです』
「良かった。今日はゆっくり休んでね」
『はい。あ、あのお皿は…』
「置いておいて大丈夫よ。菖蒲ちゃんの役目はゆっくり休む事」
「そうだよ。僕の部屋行こう」
『え、あ、はい…ありがとうございます』
またしても太陽に腕を引かれて太陽の自室へ。懐かしさを感じるんだよな、この腕を引かれる感覚。
「怖かったよね」
『だ、大丈夫。前があったから、大分慣れたっていうか』
太陽に心配させまいと頑張って笑顔を作った。それと、もう泣きたくなかったのだ。弱い自分を変えたいから。
「でも震えてるよ」
『だ、大丈夫…だもん』
「はいはい」
太陽が抱きついて背中を摩ってくれた。あったかくて、太陽の匂いがふわふわと香る。安心感が高まったせいか涙腺が緩んできてしまう。
「泣いても良いんだよ。菖蒲。どんなに強い人でも必ず涙は流すんだから」
『うぅ〜!』
耐えきれなくなって太陽の首に腕を回して泣き始めてしまった。
「今日たくさん泣いて、明日から頑張ろ、菖蒲」
『…うん』
「よしよし、偉いよ、菖蒲は」
『…うん』
なんだか赤ちゃんみたいな扱いされている様な気もするが、今日は色々ありすぎてメンタルがボコボコだ。簡単に受け入れてしまえるレベルになってしまった。
「怖い時はちゃんと怖いって言って。僕が助けに行くから」
『でも、それだと…私強くなれないもん…』
「強いっていうのもいっぱいあるよ。菖蒲はどう強くなりたい?」
『すぐに泣かない様になりたい…』
「菖蒲ご飯の時も我慢してたでしょ」
『違うの。泣きたくなるのもやだ』
「泣きたくなるのを我慢してるんだから泣いてないよ。大丈夫」
カウンセリングのようにひとつひとつ紐解かれていくような感じだ。
「本当に強い人はね、他の人に頼る事も覚えるんだよ。さっきも言ったように、遠慮なく周りの人間を巻き込んで良いんだよ」
『…うん』
「よし。ちょっとお水持ってくる」
『分かった』
太陽が戻ってくるまでに、いつもの私に戻ろう。太陽にたくさん教えてもらって、別の意味で強くなれた気がする。