第37章 HLHI Ⅲ〈栗花落 菖蒲〉
素性不明な男に襲われてから、太陽は私の声に気付いてボールを男に向かって蹴った。そのままボールがクリーンヒットしたのを見届けて男の手足を自由が利かないようにする。
『太陽!警察に電話!早く!』
「わ、分かった!」
暫くしたら警察が来て、事情聴取もされて結局帰ってきたのはもう夜八時過ぎ。
『あ~疲れた…』
微妙に手が震えている。実感はあまりないけど怖かったらしい。なんだか情けない。
「とりあえず僕の家にいて。菖蒲のお父さんとお母さんには僕から説明しておくから」
『え、ちょ』
「いいから」
半ば強引に手を引かれて太陽の家に連れてこられた。太陽が事情を説明して、またしても太陽のお母さんに介抱される形になってしまった。
「菖蒲ちゃん大丈夫?もし良かったら先にお風呂入ってきたらどうかしら」
『え、あ、はい』
「適当なパジャマ置いておくから、ごゆっくり~」
言われるがまま脱衣所へ行き、来ていた衣類を畳んでからお風呂場のドアを開けた。
『懐かしいな、この感じ…』
ボソリと呟いて、中学生の時の事を思い出した。何故か不審者に追いかけられた時も太陽が気付いたらいて、私を守ってくれて、その後の対応も太陽が殆どやってくれた。今も、私は太陽に守られている。こういう時になって思うんだ。守られてるだけじゃダメだなあって。
「菖蒲ちゃん。太陽ので悪いけど、此処に寝巻き置いておくわね」
『は、はい!ありがとうございます!』
前と同じ展開すぎてなんだか段々笑えなくなってきた。なんでこうも私は不審者に好かれるんだ。理由を探しても加害者にしか分からないからキリがないけど。考え始めたら終わらない気がして、雑念を洗い流す様に髪も身体も汚れを落としてさっと湯船に浸かった。考えないように晩御飯はなんだろうと能天気な事を考えて湯船を出る。
「お母さん!菖蒲の家には説明してきた!」
「そう。菖蒲ちゃんまだ震えてたわ。あんたが支えてやってね」
「勿論だよ」
キッチンの方から聞こえる太陽と太陽のお母さんの声。そんな見ただけで分かるくらい震えてたんだ私。何も変わってない。中学の頃と。
『あの、お風呂ありがとうございました』
「良いのよ〜。さ、ご飯よ。たくさん食べてね」
『い、いただきます!』
見るからに美味しそうなグラタンである。この季節に嬉しいあったかいメニュー。
『やっぱり、美味しい』