第36章 HLHI Ⅱ〈遠坂 雪音〉
隣でゴソゴソと音がして目が覚める。携帯を見るとまだ明け方だった。
「ん…」
『起きた?』
寝ぼけたように京介がゴシゴシと目を擦った。私は元々ショートスリーパーで6時間寝れれば上々レベルなので、今日はかなり寝た方だろう。
「此処は…」
『私の部屋。昨日の事、覚えてる?』
「きの、う…」
そう発した瞬間にみるみる顔が赤くなっていく。思い出してきたようだ。ガバッと布団を捲って起き上がり、1人であたふたしている。可愛らしい。
『昨日、あのまま寝ちゃったから、天馬に手伝ってもらってベッドに運んだの。相当お疲れだったみたいだし、起こすのも忍びないから天馬に頼んで荷物持ってきてもらったよ。今のうちにシャワー浴びてきたら?』
「あ、ああ」
『帰ってきたら髪乾かしてあげる。ほら行った行った』
半ば追い出すような形にして京介を部屋から出した。いつもよりも早めに寝たからか大分体調もいいし、目覚めも良い。カーテンを開けて、シーツや枕カバー、リネン類諸々を引っぺがして一回の洗濯籠へ投入。自分のこれからの荷物を確認して再度スーツケースに鍵をかけた。
今度は携帯で菖蒲にメッセージを送る。昨日の話を聞いた旨と、すぐに気付けなかった事を謝った。怪我が無いみたいなのでその辺は安心したと送り、机の上に再度置く。大きく伸びをして、今の内に着替えておこうとクローゼットから制服を取り出した。
コンコンコン
軽いノックの音がして、どうぞと声をかけた。着替えも終わっていたので問題ない。
『おかえり。じゃあ此処座って』
隣の人は最近退去したばかりなので音は大丈夫だろう。髪の毛は私ほど長くないし十分もあれば乾くはず。
『じゃあオイル塗るね』
「オイル?」
『そう。髪の毛は大事だからね。いつもお気に入りの匂いのやつ塗ってるんだ。ベリー系の良い匂いがするの』
2プッシュ出して手に馴染ませ、毛先が主に塗られる様に手を通していく。いつも私の使っているオイルの匂いが、京介にまで移った様に感じて少し嬉しかった。
『はい、オッケー。それじゃあ乾かすね』
ドライヤーのスイッチを入れて、根本から満遍なく温風を通していく。オイルなんか塗らなくてもサラサラなのは一体どういう事なのか。凄く羨ましい。しっかり毛先まで乾かしたら最後に冷風を当てて広がりを抑えた。
『乾いたよ』
「…ありがとう」