第36章 HLHI Ⅱ〈遠坂 雪音〉
「おいし〜」
天馬って本当に美味しそうにご飯を食べる。作った側としては絶対に嬉しいだろうなあ。
『美味しい…』
「良かった!」
秋さんが満面の笑みで返した。いつもの様子が戻ってきて、心が温かくなっていく。私、さっきまで寂しかったんだ。誰かさんが隣にいないと余計に。
「ご馳走様!」
「ご馳走様でした」
『えっはや…』
流石男子高校生。食べるスピードはピカイチ。一方食が細い私は皆より倍以上の遅さだ。
「ゆっくり食え」
『いや、言われなくても急ぐつもりはないけど…』
ゆっくりと一口一口運んでいく。あんまり辛くないカレーが何故だか酷く安心する。
「雨宮から話は聞いたか?」
『雨宮君?まだ携帯見てないから分からない。何かあったの?』
「栗花落が何者かに襲われかけたそうだ」
『まだ終わってなかったの…?』
「恐らく栗花落家の残党と思われる奴らが襲い掛かってきたらしい」
流石に全員をお縄に付けるのは難しかったようだ。まだ菖蒲を狙っているという事は、菖蒲自信に何か秘密が残されているのだろう。栗花落家当主は既にお縄についている訳だから、栗花落家の復興は絶望的。菖蒲個人に狙いを定めている訳だ。
『まあ明日から私達は強制的に合宿所で寝泊まりするし、安心だとは思うけど…』
「ああ。すぐに警察が対処したらしく、その男は捕まったが、警戒は怠るなだそうだ」
「なんだか、最近物騒だね」
『そうだね…私も、菖蒲も…どっちも色々な問題抱えてるから』
お互い、生まれてから抱えてきたものが大きすぎる。菖蒲は栗花落家。私は色んな家族を転々として、遂には自らの身を滅ぼした。
『よし、ご馳走様でした!食器洗いますね』
「大丈夫よ。2人とお話してきたら?大事なお話みたいだし」
『…ありがとうございます』
秋さんにお礼を言って、2人を私の部屋へと通した。
『襲われかけたって聞いたけど、菖蒲は無事なんだよね?』
「ああ。雨宮が間一髪で助けに入ったそうだ」
今日の菖蒲、大分メンタルボロボロだったからかなり心配だった。まぁ後は雨宮君に任せる他ないが。
『そっか…菖蒲に怪我が無いなら良かった』
「明日も迎えに来るぞ」
『ありがと。天馬、寝坊しないでよ?』
「しないよ!」
明日は具体的に何時に合宿所に来いとは言われていない。午後の4時までに到着して、自分の部屋を整えるのが明日の仕事だそうだ。