第36章 HLHI Ⅱ〈遠坂 雪音〉
選抜試合も終わって、私は菖蒲と先に木枯らし荘へと帰ってきた。
「あら、おかえり雪音ちゃん。大丈夫?体冷えてない?」
『あはは、大丈夫ですよ。ちゃんと重装備してますから』
秋さんに軽く挨拶をして自分の部屋に入った。まだストーブを付けるには早いけど、部屋の中は割と寒い。足が寒くて、最近はずっとベッドの上だ。
『寒い…な』
自分1人に部屋がこんなに寒くて冷たくて。何度も経験しているはずなのに、なんか寂しい。
「雪音ちゃん!お風呂入ってきたらどうかしら〜!」
『は、はい!今入ります!』
今日、あんまり京介と話せていない。時間がなかったし、私も彼を邪魔したくなかった。変なとこで臆病。いつも緊張せず話せるくせに。
『パジャマ、パジャマ…』
ベッドの上に投げ捨ててあったパジャマを畳んでバスタオルや下着類と一緒に抱えた。床がひんやり冷たくて、靴下越しに冷たさがじんわりと伝わる。廊下を歩いていても、どことなく冷たくて、まるで心に雪でも降ったみたい。
『うぅ…寒い』
早足で脱衣所に入って着替えた。熱いシャワーを浴びて、髪と身体を洗って、いつも通り。そう、いつも通りなのに。
『あったかい…』
お湯に浸かるとかなり温かい。温かいし、ホッとする、けど。何か違う。別に大して何かあった訳でもないのに。寂しい。寒い。お湯はこんなにも温かいのに。
『上がろ…』
気乗りしない気分のまま、湯船から出て、長袖のパジャマに着替えた。浮かない気分で歩いていると、玄関に見覚えのある人。
『京…介…』
「どうした。そんなに驚いた顔をして」
『いや、べ、別に…?』
「俺が誘ったんだ!一緒に夕飯食べようって!」
『というか、こんな時間まで練習してたの?もう寒い時期で日が暮れるのも遅いんだから!』
あ、あったかい。今日初めて、この気持ちを知ったの。
「ねぇ早くご飯食べようよ!俺お腹空いた!」
「そうだな」
京介も、中学の時に比べれば大分優しい顔をする様になった。ちゃんと笑うし、怒った時も、悲しい時も、色んな顔をする。
『もう…』
「行くぞ」
『あ、うん…』
京介に手を引かれてダイニングへ。秋さんが既に美味しそうなカレーを作って待っていた。匂いが既に美味しい。
「さ、どうぞ召し上がれ」
『いただきます』
今日のは中辛。私は辛口のが好きだけど、天馬はあまり得意じゃないみたい。