第35章 HLHI I〈栗花落 菖蒲〉
私の代わりに太陽が怒ってくれたことのほうが嬉しかった。自分じゃ消化しきれないモヤモヤを太陽が代弁してくれたような。
『怒ってくれてありがとう。なんかモヤモヤが晴れた感じがする』
「よく分かんないけど…菖蒲がいいならいいや」
太陽も怒りが収まったのか肩の力を抜いて前を見た。
『そろそろメンバー発表だね。行こうか』
「そうだね」
監督は円堂守監督、コーチは鬼道有人さん。雷門メンバーからすればなじみのある顔ぶれらしい。
「メンバーを発表する」
円堂監督がはっきりとした声で言い、皆姿勢を正した。選ばれたメンバーは次の13名。
松風天馬
神童拓人
剣城京介
西園信助
狩谷マサキ
霧野蘭丸
白竜
雪村豹牙
錦龍馬
雨宮太陽
真名部陣一郎
皆帆和人
貴志部大河
なお天馬がキャプテンとなっている。中学の時よく見た光景だ。恐らく、この後の展開によっては、さらに追加メンバーを加えることになるだろう。それは監督やコーチ次第だろうが。
「今日はこれで解散!明日から合宿所で練習だ!」
皆で返事をした後、それぞれ鞄を持って帰るものもいれば練習し足りないのかユニフォームのままボールを蹴り始める人もいる。恐らく太陽もボールを蹴っていたいのか、帰る気配はなかった。雪音を無理させるわけにもいかないので先に雪音を送り届けることにした。
『雪音』
「菖蒲。お疲れ」
『そっちこそお疲れ。ずっと書き物してたでしょ』
「大丈夫。じゃ、そろそろ帰ろうか。サッカー馬鹿どもはそのうち帰るでしょ」
『そうだね』
雪音に手を貸して立ち上がった。雪音の分も荷物を持って歩きだす。
「自分で持てるってば」
『無理しないで。みんな心配してるんだから』
「そうだけど…」
『私だって、すごく心配してるよ』
「そうだね。菖蒲はずっと傍にいてくれたもんね。また迷惑かけちゃう」
『迷惑なんて思ってない。寧ろ私も、何もできなかった』
昔からずっと一緒にいて、でもそれだけだ。雪音のために私は何も。
「もしかして、誰かに何か言われたの?」
『ちが…』
「わないよね。どうせ狩谷あたりでしょ。後で話はつけとくけど」
『…』
「狩谷が悪くないって思いたいのもわかるけど、でも私だって菖蒲がそんな風になってるのを見過ごせないよ。親友なんだから」
『雪音…』
「ずっと一緒にいてくれただけで凄い力になってくれてるんだよ」