第35章 HLHI I〈栗花落 菖蒲〉
そのまま後半も終わり、天馬達のチームが若干リードして終わった。化身は利用可能だが、ミキシマックスは時空最強イレブンしか会得していないため使用禁止となっている。つまり化身、もしくは化身アームドを駆使しつつ、必殺技も取り入れて、基礎的な技術も盛り込んでいけという事だと思われる。恐らくほとんどのメンバーが化身使いになるだろう。また、ソウルについても許可されている。
「菖蒲」
『太陽…』
「逃げないで」
優しく手を握られた。乱暴に腕を掴まないあたり、太陽の優しさが窺える。
「怖がらせちゃったのは、ごめん。でも、菖蒲も、自分で押さえ込もうとしないで」
『ごめん、案外動揺してたのかも。狩屋君と、色々あって』
「色々、かあ」
『これ以上は…言いたく、ない』
「分かった。菖蒲がどうしたいか言ってくれたから、僕もそれに合わせる」
『そっか。ありがと。狩屋君の事、責めないで。彼も辛かった筈だから』
「…分かった」
雪音は、良くも悪くも出来事が多すぎる。その出来事が周りに与える影響も総じて大きい。
『雪音の事、まだ私でも受け止めきれてないのかな』
「手術の事?」
『それだけじゃ無くて、雪音にあった今までの事。辛い事が多すぎて私も全部が全部ちゃんと認められてないかもしれない。狩屋君と話しててそう思ったんだ』
「菖蒲はずっと小さい頃から雪音ちゃんと一緒に居たんだもんね」
『そう。一緒に居て、辛かった事も認識するのが精一杯で、ちゃんと消化しきれてない、と思うんだ』
ずっと一緒に居て、でも隣にいる事しか出来なかった。私自身が何かしたかと言われれば、何も言えないのが事実。
「雪音ちゃんは菖蒲が一緒に居てくれただけで大分助けられたと思うよ。だから何もしてないなんて責めないで」
『何で、分かったの?』
「分かるよ。大方、狩屋君に何もしなかった事を責められたんでしょ?」
『分かっちゃったか〜…。そうだよ。でも本当に狩屋君は悪くな…』
「菖蒲はそう思ってても、でもダメだよ」
太陽は何となく悔しそうに左斜め下に視線を投げた。自分があまり関わりがない事だから、その無力さを嘆いていて、でも許せない。
「分かってるけど、でもムカムカするんだ。大事な人を傷付けられたら誰だって悔しいよ」
『…そっか。あはは、そういうとこも太陽らしいや』
「え…」
『良いんだ。太陽に認めてもらえたのが嬉しいから』