第34章 Boys!〈剣城 優一〉
『ただいま〜』
「「お邪魔します」」
聞き覚えのある声だ。瑪瑙と、もう1人は雪音ちゃん。そして恐らく菖蒲ちゃんだろう。
「雪音?」
「菖蒲も」
「もう1人っていうのは太陽君の事だったんだ」
「なんで2人がここに?」
「僕たちも偶々優一さんと剣城君とお家で遊ぶ約束してたんだ!」
どうやら皆知り合いだったようだ。図らずとも此処に3組のカップルが勢揃いしてしまった。瑪瑙達は上に行き、俺達は3人だけリビングに取り残されたような心地になる。元からこの場にいたのは俺達だったのに。
「ねぇ、菖蒲達何やってるんだろうね」
『気になるかい?』
「そりゃあねぇ?ね、剣城君」
「何で俺に聞く」
『そんな事言って、実は気に入ってるんだろ?京介』
「に、兄さん…」
好きな人がすぐ近くにいて見えないところで何かやってるのが気にならないわけがない。皆そわそわしていた。
「優一さんも気になってる?」
『まぁ、少しだけ』
「嘘つけ〜!めっちゃ気になってるくせに」
『バレたか』
好きな人の事が気にならない訳がない。俺や京介はそのソワソワを可能な限り隠すタイプだが、仕草に出る。太陽君はそれを隠さず全面に出すタイプだ。それこそ彼の人懐っこさと言えるだろう。
「ちょっと覗いてきても良いかな⁉︎」
「やめろ」
「え〜!だって気になるじゃん…」
『まぁまぁ。終わったら聞けば良いよ。どうやらあっちもあっちで盛り上がってるみたいだから。邪魔しちゃ悪いだろ?』
「そっか…」
太陽君を宥めて側に置いていた紅茶を啜った。紅茶の匂いだけで瑪瑙が過ぎって余計に気になる。これはいかんと飲み干して新しくコーヒーを入れ直すことにした。
『コーヒー淹れるけど、2人はどうする?』
「僕は大丈夫。まだ紅茶あるから」
「俺も大丈夫だ」
『そっか』
必死にインスタントコーヒーを淹れる事で紛らわそうとはするがなぜか気になる。2人だけの時はこんな事にはならないのに、何故か複数人で居られると気になるのは何なんだろうか。
「ねぇ、皆、見て!」
瑪瑙の軽快な声。どうやら何か良いことがあった様子。リビングでソワソワしていた2人もハッとしたように顔を上げて、まるでご主人様にやっと構ってもらえた犬のようだ。
『どうしたんだ?』
「ほら」
まるで私が育てましたと言わんばかりに雪音ちゃんと菖蒲ちゃんの背中をグイッと押した。