第34章 Boys!〈剣城 優一〉
『できたよ。どうぞ』
「わぁ…!お洒落なティーカップですね!」
『瑪瑙の趣味なんだ。紅茶が好きでね』
「へぇ…!」
自分はそうでもないが、瑪瑙の入れるお茶は桁違いにおいしい。慣れもあるだろうが、自分の入れるお茶とは根本的な何かが違う気がする。
「優一さんも知ってたっけ、菖蒲の家の話」
『ああ。知っているよ。京介経由で俺も少しだけど協力したからね』
「そうだったんだ。あの時菖蒲が戻ってこないのかなっておもったら、どうしても悲しくて寂しくなっちゃって。どうしても連れ戻すって決意したんだ。離れて寂しいって思う人でもあるんだよね」
どうやらもう太陽君は恋愛の境地にたどり着いているのかもしれない。俺にもそういう時期があったから気持ちはよく分かるが。
『太陽君は菖蒲ちゃんが大好きだね』
「当たり前だよ!それで?剣城君はどうなの?」
その言い方になると俺も剣城君になる訳なんだけど。まあいずれ京介って呼ぶ日が来るかもしれないな。
「関係ないだろ」
「今どう考えても恋バナの流れだったじゃん!」
『まぁ京介もそういうのが恥ずかしいお年頃だからな』
「兄さん、やめてくれよ…」
『はは、揶揄いすぎたか?』
雪音ちゃんとは上手くいっているようだが、最近はふとした瞬間に暗い顔になることが多い。絶対に何かあったことは間違いないが相談もされないのはちょっと悲しいな。
「剣城君、最近浮かない顔してることが多いよね。何かあったの?というか文化祭終わってからだったから文化祭で何かあった?」
「…それは」
『俺たちはほかの人間には言わないから。安心してくれ京介』
「実は…」
京介がこの上なく暗い顔になった。よほどのことに違いない。
「雪音が、手術をすることになった」
「手術?」
「ああ。成功するか失敗するかは五分五分で、失敗すれば死の危険があるそうだ」
『そんな…』
俺も太陽君も病気で入院していた。太陽君は完治したから良いものの、雪音ちゃんは生きるか死ぬかが掛かっている。
「何で、周りの人間ばっかり」
「剣城君…」
『京介。そういう時こそ、雪音ちゃんを信じてあげなきゃだめだ。お前が信じないで他に誰が信じる?』
「そうは言うけど…」
「自分が変わってあげられないのは本当に悔しいもんね。分かるよ」
京介も大分精神がやられている。雪音ちゃんは大分気丈に振舞っているがそれが逆に辛いのか。