第4章 Prop!〈遠坂 雪音〉
「へっ…残念だったなぁ?そんなんじゃっ…⁉︎」
『そんなんじゃ…何ですか?』
そのまま相手の横をすり抜けてゴールを決める。相手も、ギャラリーも口をあんぐりと開けていた。
『ありがとうございます』
「はっ…?」
『お手合わせ、ありがとうございます』
「えっ…あ、いや…」
丁寧に礼をする。私は…此処で負けてはいけない。自分の身を守る為だ。気の抜ける勝負なんて、一本もない。
「やはり素晴らしい…!」
『…』
「やはり最高傑作だ…!」
嫌だ。私を物みたいに扱わないで。私はもう、人形じゃない。もう、意思を持ってるんだ。
『始めましょう』
もう…自分勝手な大人なんて、うんざり。結局は自分の為に無力な子供を利用する。ううん、ただ満たされたいだけなのかもしれない。子供の気持ちも考えずに。
『はぁ…はぁ…』
「さっさと歩け!」
『あぅっ…』
また、この部屋に投げ入れられた。もう、辛いよ。苦しいよ。私、いつまでこんな生活を続けていれば良いの?いつになったら…全てが終わるの…?
「雪音ちゃん…!」
『あ…雫ちゃん…あはは…』
「また…あいつら…」
『良いの…。いつか終わる…。でしょ?』
ねぇ、どうしてそんなに辛そうな顔をするの…?いつか終わる。そうだよね?
「雪音ちゃん…駄目だよ。このまま此処にいたら…雪音ちゃんは…壊れちゃう」
『こわ…れ、る…?』
「こんな生活を繰り返していたら…きっと…」
『もう…良いんです…』
「え…」
『昔から…ずっとそうです…。大人は…汚いんですよ…。自分の至福を肥やす為なら…喜んで利用します…』
私の母は…そういう人だった。父は良く覚えていない。姉は…きっと今でも殴り合いをしているのだろう。
「雪音ちゃん…」
『すみ…ませ…ん、今日は…疲れ…ました…』
もう、話す気力もなくなって、目蓋が重力に従って降りてくる。そこで、意識を失ってしまった。
ーー数日後
私は、正式にドラゴンリンクの一員となり、ドラゴンリンクの中でも極秘案件扱いとなった。けれど、前と扱いは変わらず、結局実験材料であり、道具でもある。何も変わらなかった。
「雪音ちゃん…行ってくるね」
『はい』
雫ちゃんはもう登校する時間。今日は珍しい休みの日。こんな日くらいしかゆっくり出来ないなんて。いや、こんな時だからこそ気分転換をしよう。出掛けてみても…良いのかな。