第32章 Iris!〈栗花落 菖蒲〉
『た、太陽…いたい…』
「ご、ごめん…!」
『大丈夫』
太陽も太陽で真剣だったのかな。
「菖蒲」
『何?』
「実はね、僕、HLHIの選考試合のメンバーに選ばれたんだ!」
『え、えぇ⁉︎おめでとう!ずっと練習してたしね』
「だからさ、菖蒲も一緒にマネージャー、やってみない?」
『は、えぇ⁉︎』
突然言われて驚いてしまった。私に、出来るのかな。
「帝国の時凄い人数相手にして、毎日頑張ってたのは僕が一番分かってる。だから、どう?」
『ど、どうって言われても…私だけじゃ決められないっていうか…』
「どうして?」
『だって、お金の事とか…』
「違うよ。重要なのは、菖蒲がどうしたいか、だよ」
『私が…』
私、今まで自分でどうしたいかを決めてきただろうか。結局自分の意志で決めた事なんて、太陽を好きになって、一緒にいる事くらいだ。
『いつも、そうだったね。太陽がいっつも教えてくれてた。私、自分で決めて生きていかなきゃいけないのに、誰かに生き方を決めて欲しいんだ。その方が楽だって分かってたから』
「でも菖蒲はちゃんと分かってる。でしょ?」
『うん。ちょっとだけ、考えさせて。ちゃんと自分で考えて決めたいの』
「分かった」
太陽が笑顔で去っていく。眩しいけど、その光を真っ直ぐ見据えられるようになりたい。
「菖蒲ー!」
『わっ…雪音か…』
「そろそろ結果発表始まるよ。控室に行こう」
『そうだね』
控室に戻って、鏡が正面にある椅子の前に座った。まだ、少し不安が留まったままのふにゃふにゃな顔だ。私が世界に羽ばたく選手たちのサポートをする、マネージャー。皆が世界で活躍する所を見てみたい。それに、世界の皆を見てみる事でやりたい事も見つかるかもしれない。何か、きっかけが欲しい。うん、決めた。やれる事やってみる。
「そろそろ、行こっか」
『あ、うん』
席から立ってステージへと上がった。結果はもう分かりきってる事だけど、でも楽しかった。袴で踊ったり、自分に気付けたり。
「それでは結果を発表します!」
圧倒的な票数差で、空音先輩の優勝。桃花先輩も空音先輩と数票差で、先輩たちはやはり違う事を見せつけられた。まぁ、殆ど付け焼き刃でやろうと思ってやった訳じゃないから、本気で挑んできた人達に勝てる訳はない。
「菖蒲!」
『太陽』
「お疲れ様。残念だったね」
『ま、今度は来年かな』