第32章 Iris!〈栗花落 菖蒲〉
「遠坂さんありがとうございました!それでは次は栗花落さんのシチュエーションを発表しようと思います!」
雪音が顔を真っ赤にして控室に降りてきた。私もこれからああなるのかと思うとなんだか気が引ける。が、やるしかない。覚悟を決めて階段を駆け上がった。
「栗花落さんのシチュエーションは、こちらです!」
「卒業式で告白」という時がスクリーンに映し出される。あと2年も先なのに卒業とか言われても困る。全く思い当たらない。袴だからこのシチュエーション選ばれたんだろうか。
「大丈夫?菖蒲」
『や、やるしかない…か。最初に話切り出して。私が合わせる』
「任せて!」
最初は太陽に切り出してもらうことにした。いつも太陽が話し始めて私がそれに乗っかるから、その調子を崩さないでいこう。
「今日で卒業かあ」
『そうだね。太陽は卒業したらイタリアに留学するんだっけ』
「う、うんそうだよ!世界の凄いプレイヤーと競ってみたいよ!」
『本当に好きなんだね、サッカー』
「菖蒲なら知ってるでしょ。菖蒲は卒業したらどうするの?」
『私は…』
将来の事、何も決まってない。自分が何になりたいのかも全く決まってない。選択肢は多い方がいいと思って進学校に来たけど、なかなか決まらない。ダンス部に入ったは良いけど将来ダンスで食べていけるほど練習してるわけでもないし。
『まだ、決まってないんだ。将来、何になれば良いのか分かんなくてね。だから取り敢えず大学行くの』
2年後の私は、何を目指しているんだろう。私、何も分からないや。
「じゃあ、離れちゃうね」
『そうだね、太陽も、頑張って』
羨ましいな。太陽はなりたい未来が、やりたい事がはっきり見えていて。私には何もない。悔しいけど、これも私の怠惰が引き起こした罪だ。
「ありがとう」
『ねぇ太陽』
「何?」
『離れちゃうけど、私、ずっと太陽が大好きだったよ』
振り向いて、彼の目を見ないように笑った。今の私には、彼が眩しすぎる。逃げる様にステージ袖へと走った。
「待って」
「気になる展開ですが、此処で終了といたします!皆さんどうでしたか!」
会場からえ〜という声が湧き上がる。良い所で切られて観客もなんとなくモヤモヤしている様子。
『あ、あはは…』
「菖蒲、行こうか」
『あ、うん』
太陽に腕を引かれてステージを後にする。今の気持ちを見透かされてるんだ。