第32章 Iris!〈栗花落 菖蒲〉
太陽が驚いたように後ろを振り向いた。
「来年も出てくれるの⁉︎」
『今度は付け焼き刃じゃなくてちゃんとプロデュースしてよね』
「うん!任せてよ!」
『それと…イナズマジャパンのマネージャー、やってみる事にする』
「菖蒲…!」
キラキラした瞳がこちらに向けられる。今ならもう、眩しくないよ。
『私、やっぱり色んな事やってみようと思う。なあなあに生きてちゃ、勿体無いもんね』
「…うんっ!」
『私、頑張るよ…ってうわぁっ!』
「菖蒲!行こっか!」
『ど、どこに⁉︎』
「誰もいないとこ!」
袴のまま駆け出して、暗くなった校舎内を走り回った。なんだか、変な気分だ。
「あっ、ここ誰もいないね」
『本当だ』
「じゃあここから花火見よう!」
『はいはい』
太陽に言われるがまま空き教室に入って、偶々あった椅子に腰掛けた。
「菖蒲、2人きりだね」
『え、えぇ⁉︎うん、そうだね…?』
「今日の菖蒲、凄く綺麗で可愛くて、最高だよ」
『な、なんか本当に太陽って自己肯定感マシマシにしてくれるような事いっぱい言ってくれるよね』
「全部本当の事だから。それにマイナスな事言うより、プラスになれる事一杯言った方がハッピーになれるでしょ?」
『そうだね。太陽はそういう人だもん』
昔から、周りの人を沢山元気にしてくれた。言葉や、サッカーで。
「あ、花火だ」
『綺麗…』
「菖蒲もね」
『ばぁか』
頬杖をついて、横目で太陽を見ながら呟いた。太陽は花火を見上げている。
『太陽』
「何?」
『愛してる』
「えっ」
目を見開いて顔を真っ赤にしてる。いつも言わないから、びっくりしたんだろうな。
『やっぱり演技じゃなくて、ちゃんと言いたいから。愛してる』
「な、なんかいつもより積極的だね」
『ダメ?』
「ダメじゃないよ。嬉しい。キスしていい?」
頷くと、花火が上がったタイミングで唇が重なった。
『ん…』
「ね、もっと。いい?」
『聞かなくても…分かるでしょ』
「うん。聞こえる」
そっと指を絡めたら始まりの合図。もう、止められない。
『んぅ…』
「あは、かわいい」
『い、言わなくていいよ…』
「言うよ。本当だから」
花火の音が全てを消してくれる。今はただ、ずっとこうしていたい。
「愛してるよ、菖蒲」
『知ってる』
「も〜」
なんて笑って。これから辛くても、君となら乗り越えられる。