第32章 Iris!〈栗花落 菖蒲〉
客席の中に目立つオレンジ色の髪が見える。太陽だ。目が合うとぶんぶんと煩いくらいに手を振られてしまったので頭を抱えた。
「さあ、出場者が揃いました」
司会がプログラムに則って進行していく。確か最初は特技披露だったはずだ。私はこれと言って特技なんて言えるものはないんだけど、でも部活に所属している以上、これしかなかった。
「遠坂さん、ありがとうございました!それでは次に栗花落さんの特技を教えて下さい」
『はい。私の特技はダンスです』
「栗花落さんはダンス部に所属していると聞きましたから納得ですね!それでは見せていただきましょう」
自分が気に入った曲が偶々今回のコンセプトに合ってて、しかも練習してて良かった。お陰で身体にそんなに負担はかかってない。
「ミュージック、スタート!」
今回踊る曲は、実はとある小道具を使用する。だからあの時太陽に見せる事ができないと言ったのだ。その時は小道具を持っていなかったから。本来は3人で踊るんだけど、今回は私1人なのでなんとなく違和感があるところもあるが、いけるはず。間奏部分で腰に刺していた扇子を取り出した。瞬間に客席から歓声が上がる。まぁこれくらいのエンターテイメントは用意しとかないとね。
「素晴らしいダンスでした!ありがとうございました!」
なんとか3分と少しを踊りきり、達成感を覚えていた。袴でちょっと動きにくかったけど、それもそれで良い経験になったし良かった。控室に戻って一息付いたが、今度は別の問題がある。
「菖蒲、お疲れ様」
『雪音こそ。計算すごかったよ』
「ありがと。私も菖蒲みたいにダンスとかできたら良かったんだけどなあ」
『でも凄かったじゃん。問題全部瞬殺しちゃうんだもん』
「ま、これくらいしか取り得ないからね。でも次がさ…」
『あぁ…あれね…』
そう、次はシチュエーション告白。ランダムにお題が振られて、相手に告白をするというものだ。男の子は好きに連れてきて良いとの事だったので、勿論太陽を連れてくるつもりだ。
「あぁ…もう空音先輩の特技披露も終わっちゃった…」
『本当に緊張するどうしよう』
「が、頑張るしかないよね!うん!じゃあ、私行ってくるよ」
雪音が若干ハイになった様子でステージへ上がっていった。私も次に告白するのに、どんな風にすれば良いのか分からないよ。しかも告白だって太陽の方からだったし。