第32章 Iris!〈栗花落 菖蒲〉
ーー当日
「いよいよだね、菖蒲」
『あ〜…緊張する』
分かってはいるけど、私は元から人の前に立つタイプではなかったから、とても緊張してしまう。あがり症な事もあってあまりそういうのはやりたくなかったんだけど…。
「大丈夫だよ。僕がついてるし」
なんて調子良く言ってくれるけど、兎に角帝国の副会長だった時を思い出してやるしかない。空ヶ咲に合格する確率を少しでも上げたくて副会長になったけど、表舞台には殆ど雪音が立ってて私は殆どサポートだった。
「ほら、リボンつけてあげる」
『うん、お願い』
太陽に付けてもらったらなんか頑張れる様な気がする。袴って初めて着るけど、とっても可愛いし、姫カットの私には割と似合ってると思う。
「可愛いし、綺麗だよ菖蒲」
『ありがとう…。はぁ…よし。頑張ってくるか。見てて』
「行ってらっしゃい!席に座って見てるから!」
太陽に手を振って体育館のステージ横の控室に駆け込んだ。既に2人の先輩方がいて、2人ともとても綺麗だ。
『小鳥遊先輩、夜蝶先輩。こんにちは。今日はよろしくお願いします』
「あら、こんにちは。空音で良いわよ」
「こんにちは。私も桃花で良いよ。今日はよろしくね」
『はい。よろしくお願いします』
どうやら雪音はまだ来ていないみたい。剣城君といちゃついてるんだろうなあ。私1人だと肩身狭いんだけど。
「今日のその袴、もしかして雨宮君が選んだんじゃないの?」
『はい、そうです』
「やっぱり。そうだと思ったわ」
『どうして分かったんですか?』
「まぁ、分かるよね」
「ええ。丸わかりね」
先輩たちが笑っているのを見て、私も不思議だった。色も私の髪と目の色なのに。
「ふふ。可愛い」
「袴下帯の色だよ」
『え』
慌てて見てみると、帯の色がオレンジ色だった。そういう事か…。
「あらあら。顔が真っ赤っか」
『余計に緊張してきちゃった…』
「あら、自分で応募したんじゃないの?」
『い、いえ…太陽達に勝手に応募されて…』
「そうだったんだ。まぁ、お互い頑張ろうね」
『は、はい』
先輩たちと会話していたら、雪音がようやく控室に来た。もう後数分でミスコンが始まる。先輩たちの気迫もさることながら、雪音も何処か覚悟を決めている様な顔だった。最初に雪音が階段を登っていき、次に私が登っていく。ステージの上から必死に太陽の姿を探した。