第30章 Summer Dude〈栗花落 菖蒲〉
太陽の腕を掴んで海へ駆け出した。ぬるい風が今となっては心地いい。
『あ、浮き輪取ってくる。太陽先に行ってて』
「はーい」
急いで置いてきてしまった浮き輪を取って、横に抱えた。そのまま海に行こうとすると、すれ違った誰かにお尻を触られた。立ち止まっていると更にもう一度触られる。
『え…』
これってもしかして…痴漢…?考えを巡らせている間に数人の男の人に囲まれていた。
「良い身体してんじゃん」
「なぁ、やろうぜ?どうせヤリ目だろ?」
『ち、違います!』
反論すればさりげなく腰に手を回され、わざとと言わんばかりに胸に手を押し当ててくる。
『や、やめてくださ…』
逃げたいのに、逃げられない。どうしよう、2、3人くらいまでなら相手できたけど…この人数でこの狭さとなるとかなりキツイところがある。
『た、たいよ…むぐ』
「おっと…声出したら…分かってるよな」
声もダメときた。これはかなり絶体絶命。太陽、お願い気付いて。
「何、してるんですか?」
声のする方向を見ると、完全にブチギレている太陽がいた。
「女の子によってたかって…最低だね」
どこから借りてきたのか、手にはサッカーボールが握られていた。
「サンシャインフォース!」
今なら包囲を抜けられる。男どもの間を縫って、太陽の後ろに隠れた。
「うわあっ…!」
男達がバタバタと倒れていき、太陽がくるっと後ろを振り返る。
「大丈夫⁉︎菖蒲!」
『…だ、大丈夫…。怪我はしてない…けど』
「けど?」
『こ、怖かった…』
ペタンと砂浜に座り込んだ。膝の力が抜けて、上手く立ち上がれそうにない。
「ごめん。1人で行かせなきゃよかった」
『ううん…囲まれる前に気付いて行動するべきだった…でも来てくれて嬉しい、ありがとう…』
若干泣きそうになりながら、太陽に手を貸してもらい立ち上がった。生まれたての子鹿の様に足がプルプル震えている。
「おんぶするよ。いい?」
『…うん』
お日様の匂いに混じりあって潮の匂いがする。酷く安心する匂いだ。
「怖かったでしょ。もう大丈夫だから」
『うん…大丈夫。太陽が来てくれたから、もう怖くない』
ぎゅうと強く太陽を抱きしめた。ふわふわの髪の毛に顔を埋める。
「わっ…くすぐったい…」
『大好き、太陽』
「えぇ⁉︎いきなり!」
『今日は…というかいつも、ありがと』