第30章 Summer Dude〈栗花落 菖蒲〉
「心配したよ」
『うん』
「凄く、怒ってたよ僕」
『ごめんね』
「でも無事に帰ってきてくれてよかった」
太陽には何も言わなかった。覚悟を決めたつもりだったから。でも、結局1番に思い出すのは太陽で。
『太陽の事、頼れなかった。迷惑、かけたくなくて』
「迷惑だなんて思わないから。次から、お願いだから僕を頼って。お願い」
『…うん。本当、馬鹿だなあ、私。記憶を操られる時、1番に思い浮かんだのが太陽だったのに。蔑ろにするなんて』
「ふーん。やっぱり僕が一番なんだ?」
『そうだよ。何?それとも天馬って言えばよかった?』
「やだ。僕といる時は他の男の子は忘れて」
『はいはい』
こういうギャップが、ドキドキさせる。普段は犬の様に人懐っこい彼だが、2人きりでいる時には男を見せてくれるんだ。
「絶対に菖蒲は渡さないから」
『もうどこにも行かないよ』
「本当?」
『本当。ずっと太陽の隣にいるから』
「そっか」
お互い、一度嘘を吐いている。太陽はホーリーロードの時に。私はこの前の栗花落家の時に。これでお互いの気持ちがわかったはずだ。
『私達がまだ中学1年生の時のホーリーロードの事、覚えてる?』
「うっ…覚えてる、けど」
『そんなに縮こまらなくても、もう責めないよ』
「あの時…菖蒲に泣きながら怒られた時、もうこの子を泣かせちゃダメだって思ったんだよね」
『そうだね、凄く心配したよ。だって死んじゃうかもしれないって思ったから。凄く辛かった。でも、私はそれとおんなじ事を太陽にやったんだ』
酷いこと、したんだ。悲しませちゃったんだ。
『だから、2度としない。あんな事。ちゃんと、何かある前に太陽に話すから』
「うん。僕も、そうするよ」
『約束しよう。お互い』
「うん」
小指を絡めて誓った。独りよがりは、今度こそ卒業しよう。
『帰ってきてからずっと謝りたかった。だから、前から約束してた海で、言おうと思って』
「2人で来れて、良かったね。菖蒲」
『うん。この約束は、守れたね』
これ以上座っているとなんだか暗くなってしまいそうだったから、徐に立ち上がった。
『ねえ、海に行こうよ。今の時間だったら気持ちいいよ』
「うん。そうだね」
『本当に泳げるか、見せてよ』
「えっ、まだ疑ってたの⁉︎」
驚いた様に太陽の目が見開かれて、がっくしと項垂れている。
『ほら早く』