第29章 Summer Time!〈遠坂 雪音〉
「行くぞ」
『うん』
剣城が前方に、私は後方に乗り込んで発車を待つ。スタッフさんの合図で手が離されて、坂を下っていく。
『わ、割と速くない⁉︎』
「落とされるなよ」
『ちゃんと掴んでるもん!』
暗い水流をとんでもない速さで流れていき、段々と前方から光が見えてくる。
『うわぁあ!』
「雪音!」
私の運動神経の無さが祟ったのか、スライダーから出た瞬間に水に叩きつけられた。泳ぎ方なんて知らないから、水の中でもがくしかない。
『がっ…』
「…ね!」
口の中がもつれた瞬間に引っ張り上げられる。
「雪音!大丈夫か!」
『げほっ、大丈夫…ちょっと水飲んじゃったくらい。ありがと』
「そうか…良かった…」
海だと何があるか分からないから、プールにしたのにこのザマっていうのがみっともなさ過ぎる。ちゃんと泳ぎ方ぐらいマスターしてれば良かった。
「少し休憩するぞ」
そう言って私を姫抱きにした。周りの目線が痛い。
『だ、大丈夫!歩ける!』
「大人しくしとけ」
『…はい』
休憩所に連れてこられて、ビーチベッドに寝転がった。
「水持ってくる」
『ありがと…』
髪も崩れちゃった。水着に浮かれてなんかすごいダサいな私…。普通の女の子ならこんな事にならないで素直に楽しめてたかもしれないのに。
「あそこにいるの、遠坂じゃん?」
「本当だ。1人じゃん」
「声掛けてこいよ」
周りの声がうるさい。素直に楽しませてほしいだけなのに。
「ねぇ、1人?俺らと遊ばね?」
『い、いや…今ちょっと休んでて…』
「じゃあ此処で話そうぜ」
『はぁ』
「ぶっちゃけ、剣城京介の彼女なんだろ?」
『そうだけど…』
「あいつ無口だから意思疎通難しくね?」
なんか随分フレンドリーだな。そういえばこの人同じ高校だった様な。
『割と分かりやすいよ』
「へ〜。良いじゃん」
『え』
「周りの人からすれば気難しいって感じるけど、彼女からすれば分かりやすいって事じゃん?つまり…」
『わー!!!それ以上言わなくて良いから!!』
「あー面白いの見れた」
『か、揶揄ったの⁉︎』
「騙される方が悪いんだっての。じゃあなー!」
次学校で会ったらイチャモンつけてやる!
「どうかしたのか?」
『おかえり。同級生に会って揶揄われたんだよね』
「その様子だと、もう元気な様だな」
『うん。もう大丈夫だよ』