第29章 Summer Time!〈遠坂 雪音〉
『お腹も空いたし、何か食べようよ』
「そうだな」
京介から水を受け取って少しだけ口に入れた。塩素の匂いに満ちた口の中が若干浄化された気がする。
「さっき、何話してたんだ」
『…内緒』
分かりやすくムスっとしてる。こういうとこ、分かりやすいと思うんだけどな。
『別に大したことじゃないよ。ただの世間話』
「にしてはかなり感情豊かすぎだろ」
『か、揶揄われただけ!特に何もないから!』
なんだか恥ずかしくなってきて、慌てて会話を打ち切ろうとした。割と見られてたんだなと思うと、結構恥ずかしい。
「…まぁいい。体調はどうだ」
『大丈夫だって。何食べようかな』
軽食も良いけど、クリームソーダ飲みたい気分かな。京介は何が好きなんだろう。
『京介は、どんな食べ物が好き?』
「お、俺はお前が作ったものなら何でも…」
『そ、それはつまり、お弁当…美味しいって思ってくれてる…って事ですか…』
料理とか全然ダメだったけど、秋さんに教えてもらえてよかった。毎朝早起きして卵焼きとかアスパラの肉巻きとか作れる様になってきた。まだ簡単なものばかりしか作れないけど。
「あ、ああ」
『ありがとう…これからもお弁当、作って良い…?』
「ああ。頼む」
食べ物選ぶつもりがとんだ方向に行ってしまった。
『そ、そうだ。何食べる?飲み物とつまめるやつ…ポテトで良い?』
「ああ」
『じゃあ私はクリームソーダで。京介はどうする?』
「俺はウーロン茶でいい」
『そっか。じゃあ…』
「俺が行く。席に座って待っててくれ」
『はーい』
私の身体があまり強くないせいで京介に気を使わせちゃって本当に申し訳ない。でもこの身体が治る見込みは少ない。
『もっと…強くなれたら良かったのに』
もっと、周りを見て行動できていればこんな事にならなかったのかなと、今でも後悔している。でも、大事なのはこれから。例えこの先の未来、私が居なくなるとしても。京介には幸せになってほしいから出来る限りのことをする。
「どうかしたか?」
『ううん。あ、持ってきてくれたんだね。ありがと』
「ああ」
かなり高カロリーだけどいいや。好きな人と好きなもの食べるのって幸せだから。
「クリーム、ついてるぞ」
『ほえ?』
口端についていたバニラアイスをそっと取って、そのまま舐めてしまった。
『ば、ばか!』
プールに大きな声が響いた。