第29章 Summer Time!〈遠坂 雪音〉
プール当日
いつもの如く木枯らし荘に迎えに来てくれるそうなので、大人しく待っている事にする。いつもはその日の気分に合わせてポニーテールにしたり下ろしてたりするけど、今日はプールに行くので髪の毛を纏めてみた。瑠璃さんに教えてもらった凝ったまとめ髪で何となく気分は上がってる。
「雪音ちゃん、剣城君来たみたいよ」
『あ、はいっ…!』
慌ててプールバッグを引っ掴んで木枯らし荘を出た。なんて言われるだろうとか無駄にドキドキするのは、なんでなんだろう。
『お、はよ…』
「おはよう、雪音」
名前を呼ばれてドキッとして。最近いっつもこうだ。
「可愛い」
『ありがと…』
今迄どうやって会話を続けていたっけ。緊張して何を話したら良いか分からなくなる。
「具合、悪いのか?」
『ち、違うよ!めっちゃ元気!うん!』
「そうか」
どうしよう。前はこんなんじゃなかったのに。こういう関係になってからギクシャクしちゃって、自分でも変だなって思っている。
「何か、気に触る様な事したか?」
『そういう訳じゃなくて、なんて言ったら良いか分かんないけど…なんかドキドキしちゃってどうやって話したら良いか分からなくなっちゃって』
俯いて、兎に角正直に言ってみた。恥ずかしいし、どんな顔したら良いのか分からない。
「雪音」
ぎゅうぎゅうと抱き締められて、夏の日差しも相まってやられてしまいそうだ。
『えぇ、ちょっと⁉︎』
「…」
『な、なんか言ってよ!』
京介は元から無口な方だけど、こういう時にますます分からなくなってくる。
『あ、暑いって…。あーもう!苦しい!』
持てる限りの全力で剣城を引っぺがした。夏の日差しがさんさんと降り注いで、じわじわと額に汗が伝ってくる。
『ばか。早く行かないと混んじゃうよ。行こ』
「あ、ああ」
『感極まっちゃった?』
「…」
照れてそっぽ向いてる。そういうとこも好きだよ、なんて。
『変に意識するより、なんかこっちの方が楽で良いや』
「そうだな」
『楽しみだね。そういえば浮き輪持ってきたんだ。瑠璃さんのお下がり。ヒロトさん達も海とかプールとか行ってたのかな』
「まぁ、あの人なら…」
昨日に引き続き剣城が遠い目をしている。一体ヒロトさんと何してたんだろう。
『そういえば昨日もヒロトさんと一緒にいたけど、何してたの?』
「いや、あれは…」