第29章 Summer Time!〈遠坂 雪音〉
トップはキャミ付きのオフショルダーでフロントが編み上げになっている紫のもの。スカートは黒無地のシンプル。これに一目惚れしてしまった。
「あらら、可愛い茹蛸さんだこと」
『もう!揶揄わないでください…!』
「ふふ、雪音ちゃんは面白いわね。最近頑張ってくれたお礼にそれ私が買ってあげる。それ来て今迄で一番可愛い雪音ちゃんを剣城君に見せてあげてね」
なんだか始終瑠璃さんのペースに持ち込まれていたが、なんとか水着を買うことはできた。本人はあんまり色とか気にしなさそうだけど、まぁ良いか。私が分かってればそれだけでなんだか嬉しくなってくる。
「じゃあ、ちょっとお茶して帰ろうか?」
『良いんですか?』
「勿論、お互いに最近あった事お話ししようよ」
つまりそれは恋バナしようということでは…。でも瑠璃さんの恋バナは少し気になる。
「じゃあ決まりね」
その後夕方までたっぷり瑠璃さんと近況報告という名の恋バナ大会が始まり、ヒロトさんの意外な一面を知る事ができた。分かってはいたけど、ヒロトさんは瑠璃さんに激甘な様だ。
「あれ、迎えが来てるみたい」
『え』
顔を上げるとヒロトさんと剣城が一緒に立っていた。
『え、なんで二人が一緒に…』
「ま、まぁ男の事情ってやつかな!これは僕が払っておくから。2人は帰ってて良いよ」
『は、はぁ…』
兎に角席を立って店を出る。ヒロトさんがブラックカードで払ってるのを見て、やっぱり社長さんなんだと再確認した。
「瑠璃さんと何してたんだ?」
『デート』
「は」
『なーんてね。ただのショッピングだよ。ほら』
ショッパーを見せると安心した様に溜息を付いていた。なんか分からないけど、剣城も剣城でゲンナリしている様に見える。ヒロトさん、一体剣城に何したんだろう。
『水着、買ったんだ。プールに行くのにスク水は無いでしょ』
「あ、ああ」
水着って単語を発した瞬間に剣城の反応がカクカクになっていく。
『当日まで、内緒ね』
「…ああ」
『あーあ。もう着いちゃった。あのさ…』
「なんだ?」
『京介って、呼んで良い?』
「当たり前だ」
ぽんと頭の上に手が置かれて、身長差を意識する。なんかキュンとしてしまう自分が憎い。
『じゃあね、京介。また明日』
逃げる様に木枯らし荘へと走って、照れるのを隠す様に顔を押さえて赤面した。こんな気持ち、知らない。