第28章 Prisoner!〈栗花落 菖蒲〉
「それは僕も気になってたんだ。この先、何が起こるか分からない。気を付けて行こう」
『そうだね』
切られてボブになった髪のおかげで少しすっきりした。けど、まだ少しだけ怖い。
「大丈夫。僕が付いてる」
『…うん』
心を読んだかのように太陽が言った。ひどく安心して、痛む足の裏も気にならない。これがアドレナリンってやつか。
『ここを抜ければ…』
「菖蒲」
『お、お婆様』
後ろを振り返るとお婆様が立っていた。いつの間に…気配もなかった。
「ああ、髪を切られてしまったのですね。逆らわなければそうはならなかったものを」
『生きていればなんぼでも伸ばせる』
「そうですね。あなたの髪の事を教えていませんでした」
『私の、髪?』
「あなたの髪は数百年に一度しか現れない翡翠の髪。翡翠の髪にはどんな願いも叶えるという力があります」
『この髪に…?』
「あなたが切られた髪は私たちの手元にあります。どういう意味か、分かりますね」
つまり、相手がなんでもできちゃうってことなのか。私の髪で?本当に世の中やってらんない。
『お婆様。甘いですよ』
「何?」
『その髪に本当に願いをかなえる力が残っているとお思いですか?』
「あなたはこの髪の力を知らなかったはず」
『そう。でも、その髪の願いはもう使い切った』
「どういうことですか」
思い出したんだ。少しだけだけど、太陽と一緒にいて、そして髪があってこそ。
『太陽も、この髪を大事にしてくれていたよね』
「う、うん。そうだけど」
『私、記憶を書き換えられる前、すごく必死に願ったんだ。太陽の隣にいたいって。元の場所に戻りたいって』
「菖蒲…」
『だから、今こそその願いをかなえる時だよ、翡翠の髪!』
お婆様の手中にある髪が光り始める。お婆様と私たちの間に大きな障壁が現れた。
『今のうちだよ、行こう』
「うん」
太陽がもう一度私の手を引いて走り始めた。私の髪にこんな力があったのは知らなかったけど、取り合えず役に立ってよかった。
「あの車に乗って!」
『うん!』
急いで前方の車に飛び乗った。
「菖蒲!」
『雪音!』
「良かった…無事で…」
「もう車を出すよ。捕まって!」
ヒロトさんがハンドルを握ってアクセル全開に踏み込む。一番後ろの真ん中に座って一息ついた。
『あ~冷や冷やした』
「そういえば記憶は?大丈夫なの?」