第28章 Prisoner!〈栗花落 菖蒲〉
外を見ると誰もいない。ここは玄関近くの茶の間だ。家の中がこうも手薄なのが怪しい。
「急いで。今なら出られる」
『うん』
外した格子を手に持ったままゆっくりと茶の間に降り立った。後から太陽も楽勝といった様子で降りてくる。
「このまま玄関だと流石にバレるから、そこの窓から外に出るよ。ついてきて」
『分かった』
周りの様子を伺いながら窓を開ける。今はちょうど祈祷の時間だから誰もいないのか。
「この柵を超えるよ。登れそう?」
『大丈夫。フィジカル面なら自信あるから』
「頼もしいね。じゃあ行くよ」
『うん』
2人で柵を超えると、屋敷中にブザーが鳴り響いた。
「これは…」
『急いで!追手が来る!』
太陽が私の手を取って走り出す。足袋は履いてるけど石ころが偶に尖ってたりして割と痛い。けど、ここで捕まったら私もどうなるかわからない。
森の中を走っていると周辺から五人くらいが動き回っている音が聞こえる。あらかじめここに潜んでいた可能性が高い。
『囲まれてる』
「え」
『ここで応戦するしかないね』
「応戦するって菖蒲は何も持ってないよね?」
『体術なら、心得あるから』
「えっ、聞いたことない」
『言ってない』
あ、なんかこのなんてことない会話、知ってる気がする。ずっと前から一緒にいたような。
『構えて。ここに来たってことは君もそこそこに自信あるってことでしょ』
「勿論!背中は任せたよ、菖蒲」
『任された。太陽』
その言葉が発された瞬間に茂みから人が飛び出してくる。何年前だと言わんばかりの山賊のようなならず者たち。ここはRPGの世界か何かなんだろうか。
「行かせないぞ!」
『邪魔しないで!』
足で薙ぎ払って、二人すっ転ばせる。すかさず指を二三本折って行動不能に。太陽は三人を相手にしている。加勢に行こうかと思ったその時、視界の端に動いてるものが見えた。刃物が頬を掠め、一気に頭が軽くなった。
「菖蒲!」
『私は大丈夫!そっちを先に片付けて』
切りかかってきた男に技をかけて折角だから指を全部折っておいた。痛みに悶えているところを見届けると、太陽も相手を終えたようだった。
「菖蒲、髪が…」
『髪なんていくらでも伸ばせる。生きてればね。だから早く行こう』
「…そうだね。もう少しだから」
『でも、ここまで上手くいってるのが怖い。お婆様がこんな無策なはずは…』